第一部
第二章 〜幽州戦記〜
二十五 〜張三姉妹〜
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のだが、良いか」
「だ、ダメ! これがなかったら、私達また……」
「また売れない芸人に戻るのが怖い……か。だが、私は渡せ、とは言っておらぬがな」
「……え?」
私の言葉に、張角が首を傾げた。
「そもそも、どのような書物なのかも知らぬのに、取り上げるなどと決められる訳がなかろう?」
「なら、どうして知っているのよ。おかしいじゃない?」
張宝が、食って掛かる。
何とも、気の強い事だ。
「人間というものは、急には変われぬものだ。ならば、何か切欠があると考えるのが自然だろう。そして、何の後ろ楯も元手もないお前達が急に人気を得る。となれば、何かの介入もしくは力が働いたと言うのは、想像に難くない」
そこまで聞くと、張梁はふう、と息を吐いた。
「姉さん。いいわね?」
「うん、れんほーちゃんに任せる……」
「…………」
張角と張宝の反応を確かめてから、張梁は懐から書簡を取り出す。
「これよ」
「では、拝見するぞ」
貴重品である紙で作られたそれは、確かに尋常な書簡ではなさそうだ。
慎重に、書を広げた。
「……。これは……」
「どうなさいました、歳三様?」
「稟、読んでみよ」
「はい、では」
眼を通していくうちに、稟の顔つきが変わるのがわかった。
「こ、これは……。風、見て下さい」
「はいはいー」
そして、風もまた同様の反応を見せる。
「どうか?」
「はいー。諜報指南の書のようですねー」
「待て。私が見たのは、主君としての指南が記されていた筈だぞ?」
「いえ。私は戦術指南の書でしたが」
どういう事だ?
他の者に見せてみたが、皆内容が異なっているようだ。
霞は騎馬隊の扱いの書と言い、恋は動物飼育の指南書と言う。
「その書は、持つ人間によって見える内容が変わるのよ」
張梁の説明で、合点がいった。
「では、お前達が見たというのは……」
「ええ。如何にして、人気を得るか。その手管が事細かに書かれていたわ」
「……今一つ聞くが。これを誰から手に入れた?」
それに答えたのは、張宝。
「ちぃの揮毫が欲しい、って人がいてね。その日は気分もノってたし、握手もしてあげたんだ。そしたら、感激しちゃって。『この書を使って下さい。きっと、あなた方は望みが叶うでしょう』って」
「ただ、効き目は抜群だったけど、効きすぎだったのも確かね」
「えーっ? でもお姉ちゃんが大好き、って人が一杯増えたんだよ? いい事じゃない」
脳天気な言葉に、愛紗がいきり立つ。
「貴様ら! そのお陰で、たくさんの民が苦しみ、殺されたんだぞ!」
「落ち着くのですぞ、愛紗殿。暴走したのはこやつらが指示した訳ではないようですからな」
「ねねの言う通り。……だが、今となっては、そのような申し開き、罷り通るとは思えぬがな」
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