暁 〜小説投稿サイト〜
ヱヴァンゲリヲン I can redo.
第九話 Misatos
[2/3]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
ヨウジは思わずその名で呼んでしまった。彼女の耳に聞こえるようにはっきりとした声。

 呼ばれたサトミは缶を置き、タンクトップで口元を拭いた。ムッとした口調で言い返す。

「その名前、私はもう捨てたわよ。今はただの藤城サトミ。あんたも加持リョウジでは無く、ヨウジ・カヤマ」


 ヨウジはそれを聞いて悲しそうな表情に変わる。しかしサトミは、相変わらず彼に背を向けて続ける。

「最近、前の世界の苦しい記憶ばかり思い出すのよ…。

 自分たちが生き残るために必死で…

 子供たちの事なんか正直どうでもよくて…

 守りたいものを守ろうとした人間を犯罪者扱いして…。

 あんなに嫌いだった父親の様に、他人を守れなかった…。




 そしてその苦痛の先に在ったのは…あの赤い世界。絶望に満ちた人生…」


「葛城…」

 ヨウジ、前世「加持リョウジ」の脳裏にあの記憶がよみがえる。一面の赤い大地。建物で見る事の出来なかった地平線が良く見え、動物が存在しない死の大地…。

 彼も忘れたかった…でも…

「もう忘れたい! 解放されたい!! あんな世界なんて…もう消してしまいたい!!」

 前世ではクールだった彼女は、うって変わって泣き叫んだ。自分の為に愛する人を傷つけ、世界の為にまた愛する人を傷つけた。その苦痛を忘れる術もなかった。

 しかしそんな彼女に、ヨウジは怒鳴った。

「葛城!! 俺だって前世を思い出すのは辛いんだ!! だから過去の事を感じて感傷に浸るのは構わない、しかし、俺らにはやるべき事があるんだ! 過去を捨てるなんて、絶対にするな!!」

 サトミが涙を湛えた眼で、ハッとした表情をして振り返った。彼女が見たのは、怒鳴って呼吸を荒くしたパートナーの姿。歯を食いしばり、彼女と同様に苦痛に耐えている姿だ。

 サトミはそこで改めて気づいた。自分たちに課された、いや自分達で課した使命を。


 この世界には、同じレールを進ませない──。


 それを転生したミサトと加持は、この世界で初めて出会った時に決めた。

「そうだった…私、忘れかけてた…」

 ヨウジはホッと息を一つ吐くと、残ったもう一つの缶に手をかける。

「ところで藤城、なんで今回俺を部屋に呼んだんだ?」

 さっきまで情けない表情をしていたサトミは、その表情を一気に引き締める。その表情はヴンダー艦長時代と酷似していた。

「あんたは知ってたかしら…4号機の事故の件…」

 ヨウジも、真剣になった。







 葛城ミサトの執務室は、書類で溢れかえっていた。先の対第五の使徒戦で損害した家財の賠償請求の書類である。その額合計で何億円。

 彼女はその全ての書類に目を通し
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ