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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第四話 暗闇に響く咆哮
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少尉は各小隊を使って撤退の支援を。
擲射砲分隊・騎兵砲小隊は撤退しろ。」
 冬野曹長に止血をしてもらいながら指示を飛ばす。
 ――部隊が散りすぎだ、これでは集結に時間がかかりすぎる。
 匪賊討伐では問題にならなかったが、新たな戦訓を脳裏に刻む。
銃兵達が戦列を組み直して前進していくのを唇を歪め、見守るしかない。
 ――退路の確保が可能な内に合流できるか? 新城は――直衛は無事だろうか?


同日 同刻
第二中隊 中隊長 新城直衛

「負傷者達は?」
「五十名程救出に成功しました。孤立していた者達も合流出来ました。」
 猪口が答える。
「但し二十名程戦死者が。」
 やむを得まい。そろそろ限界だな。
「宜しい。直ちに撤退だ。今宵の地獄はここ迄にしよう。」
 将校は殆ど生き残っていない、僕が次席指揮官になるのだろうか?
 ――あぁ、まったくもって迷惑極まりなくとも興味深い状況だ。



「思ったより遅かったな。」
 負傷して顔を少々青ざめながらも新しい大隊長は、銃兵達と共に最後まで残り、将校の見栄を守っていた。
「申し訳ありません。大隊長殿。」
 そう言うと豊久は一瞬寂しげな表情を過らせ、直ぐにふてぶてしい笑みを浮かべた。
「第一・第三中隊も合わせてこの数か――
中尉、撤退するぞ。当分は扱き使わせてもらう。
なにしろ、人手不足だからな。」

 ――後方支援要員は開念寺に残してあるとはいえ、大隊の戦闘可能人数は二百名に届かないだろう。
 前線を支えられる将校も片手で数えきる事が出来るほどしか居ない。
 中々どうして悲惨な状況だ。
「了解であります。大隊長殿。」
 兎にも角にも軍隊故に選択権は無いが、少なくとも最悪から片足を抜いてはいられるようにしなければ。


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