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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第四話 暗闇に響く咆哮
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するしかあるまい」
 ――元々時間稼ぎの為の夜襲だが、この状況は控え目に言って泣きたくなる状況から涙もでない状況にまで一気に悪化している。
 
「危険ではありませんか?」
 鋭兵小隊長の杉谷少尉が聞いた。
 貴重な施条銃を与えられている鋭兵の生え抜き将校は、中隊長よりも冷静であった。
「勿論危険はある、だが最短距離は八百間程度、成功の見込みは十分だ。
それに剣虎兵達の強襲で敵は釘付けになっている。
今ならまだ可能だ。当然、騎兵砲は側道の外れを迂回させる。導術分隊も橇に載せて同行させろ。」
 ――どちらも危険に晒す事は出来ない。

「了解であります。中隊長殿は?」

「俺は鋭兵小隊を直卒する。 杉谷少尉も同行してくれ、俺が死んだら後を頼む。」
 自分の口にした言葉で恐怖がこみ上げる。腰に下げた特製の短銃と鋭剣が急に重くなる。
 その全てを無視して命ずる。
「行動――開始だ。」



 ――しかし流石は剣虎兵だな、強力であるし何より派手だ、敵を完全に引き付けている。
 暴れまわる猛獣とそれを巧みに利用して猟兵を刈り取る兵達を観て豊久は素直に感嘆した。
 ――急げば無傷で到着できるかもしれないな。
 成功するか、敗北するか、全ては時間の問題だ。
 だが予想以上に敵を圧倒し、引きつけている剣虎兵は鋭兵達が主戦場をかすめる様に移動する強力な手助けとなった。
「中隊長殿!」
 杉谷少尉が声をあげる。
「何だ?」
「二刻の方向に!」
 言われた方向に目を向けると乱戦から外れ統制を取り戻したらしい小隊が剣虎兵達へ銃口を構えている。距離は・・・五十間位か。
「総員、二刻方向。用意、撃て!」
 施条銃とそれを専門に訓練された鋭兵は射撃のみで敵の半数以上を刈りとった。
 残りは気がついた剣牙虎に薙ぎ倒されていく。
 ――あれは西田少尉と隕鉄か。
視線を交わすと、西田は鋭剣を振りながら、顎でしゃくる。
 その先で暴れる剣牙虎に見覚えがあった――千早だ。
「よし、総員再装填を済ませたら着剣――覚悟はできているな?」
 馬堂大尉も鋭剣を抜き、覚悟を固める。
 ――取り敢えず生きて帰ったら野戦銃兵章は絶対もぎとってやる!
 


同日 午前第四刻前 交戦地域
第二中隊 中隊長 新城直衛中尉


 猪口曹長が駆け寄り、報告を行う。
「ここの敵は片付きましたな。大半が逃げております。」

「損害は?」

「兵が三名程、将校と猫は皆無です。」
 ――上々だ、鋭兵小隊の援護が効いたな。
「撤退しますか?」
 猪口が言うが、それに応える前に声がかかる。
「おいおい、いかんよ。曹長、それを決めるのは俺だ。」
 支援を行っていた馬堂大尉が鋭兵達を引き連れてやってきた。
 彼の片手には鋭剣が
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