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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第四話 暗闇に響く咆哮
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かっているだろうが退却の判断は貴様に任せる事になるだろう。
大隊本部は第一中隊に続き前進し、第一・第三中隊の指揮をとる。」
 ――本部要員も駆り出したか。
 示唆はされていたが本当に行動するとはこの大尉は信じきれなかった。
「貴様は退路を確保したら導術で戦況を把握し、一刻以内に退却の機会を見計らって合図の青色燭燐弾を打ち上げろ。 もし、本部が全滅したら最先任大尉の貴様に指揮権が移る、貴様が大隊長だ」
 にやりと笑う姿を観て背筋が冷える――死ぬ覚悟が決まっている人間の顔だった。
「返事はどうした!!」

「はい!大隊長殿、確かに拝命いたしました。」
 無理矢理、祖父の教え通りに不敵な微笑を貼り付けながら豊久は祖父の事を思い出していた。
 ――指揮官は苦しい時ほどふてぶてしく笑え、と教えられた。考えを纏める時に、命令を下す時に、指揮官が怯えていようと無理にでも笑えば部下達はそれを信じて組織として動き続けるそうだ。
 ――今の自分はそれに縋りつくしかない。

「俺の指示で赤色燭燐を打ち上げろ。その後は作戦の範囲内で貴様の判断で動け。」
 ――大任だ。俺に出来るか? だが此処は軍隊だ。俺は軍人だ、それも将家の跡継ぎだ、地位だけでも先に与えられたのならばそれに応えるしかない。
「――はい、大隊長殿。」
 ぎこちなく――だがしっかりと口を歪めた。

 
同日 午前第三刻 伏撃予定地点
独立捜索剣虎兵第十一大隊 集成中隊 中隊長馬堂豊久


 ――来た。
第一中隊の猫達が細波のように動く、彼女達を信仰する剣虎兵達が武器を手に取る音がそれを報せた。
「騎兵砲は前進、側道まで二百間の距離で砲列を整えろ」
 中隊長は掠れた声で命ずる
 輓馬と車輪が無神経に凍てついた枝葉をへし折り静寂を蹂躙しながら旋回して砲列を整える。
 音が響くたびに呼吸が乱れるのが分かる、演習で初めて撃った時の砲声よりもこの遥かに静寂を乱しているだけであるのにひどく恐ろしい。
 「砲列を整えました」
 冬野が報告すると中隊長は即座に命ずる。
 「近接用の散弾を装填、赤色燭燐弾が上がったら即座に撃てるようにしろ」
 装填が完了して小半刻もせずに、狙いである前衛部隊が視界に入った。
 息を潜め、やり過ごしているがあまりにも敵の縦列が長い。
 ――多い、先鋒が大隊規模だとすると、敵の本隊は追撃の騎兵を多めに配置しているとすると六千以上、完全編成の〈帝国〉猟兵旅団に準ずる規模か?
 こんな時でも、いやこんな時だからこそか、馬堂豊久の脳髄は軍事理論による分析に逃避する。

 ――落ち着け、今必要なのは分析ではなく行動だ。 命令を下せ!
「曹長、各小隊に所定の計画の通りに、と伝達。
第一中隊が突撃後速やかに第二中隊の後方に移動、退路確保を支
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