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隅々に眠る
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こともできるんです。あなたがそれを選択しても、僕は全く軽蔑もしません」
「どうして」
「……お気持ちは、わかりますから」
「……お互い、大変ですな」
「いえ……」
 オレには、軽蔑する資格がない。
 それはオレ自身、現在まで、逃げ続けている脱兎のような男だからだ。
 逃げて逃げて、いつでも死ねるだなんていうおかしな状況を作った張本人が、この嬢宮姫希という男なんだ。
 葉が必要としてくれている。
 分母が引き止めてくれる。
 それだって、時折、逃げ口上にしか思えなくなる時がある。そんな晩は、決まって切ない一日の最後に、シーツにくるまったあたりで訪れるんだ。
 生きた心地がしないよ。この時ばかりはね。
「――大学の時、ジャーナリズムに真の正義があると思ったわけではありませんでした」
「あんの話だよ。葉のヤツ半分寝かけてるぞ」
「いいから。どうぞ、続けてください」
「ええ。ありがとう」
 にっこりと笑った年老いた顔面に伝った涙を、見ないふりをして話に聞き入った。
 それは確かにオレ達が既に経験した話ではあったけど、本人の口から改めて聞くというのには新しい何かが眠っている気がする。
「ですから、このオブジェクトとやらを適応してみなくてはわかりません。あの日あの時、なぜ彼とあそこにいたのか」
「中東でしょうか。どこかの部族の集落を訪れていたようでしたが」
「……別の友人から、航空機のチケットを見せられてなにやら叱られた覚えがあります。きっと、その時のことを言っていたんでしょう。それでも私には記憶の修正が……かかっていて」
「今もだろ、おっさん。全部思い出すのはそのカメラを適応してからだ。逃げるのか。受け入れるのか。はっきりしな」
「……私の記憶には、こんなカメラはない。きっと、友人のカメラなんでしょう」
 カメラを手に取り、優しく一度撫で、オレの目を見た彼の双眸には、強い意思が感じられる。
 これが年の功なんだろうかな。
 おそろしく芯の強うそうな、覚悟を決めた男の目なんだと思う。
「葉。おい、葉。仕事だぞ。カメラを適応してくれ」
「ううん……? 何、結局適応するの?」
「お願いするよ、お嬢ちゃん」
「むう。お嬢ちゃんって言わないで頂戴! 私はこの二人と同じなの! 同列なのよ!」
「葉。早くするんだ」
「姫希が冷たい……」
 わかったわよ――と続けて、葉は立ち上がる。
 カメラを手に取り、そのまま学長の隣へと座ってから一度だけ髪を整えた。長くて綺麗な黒の髪だ。
 一体なんだって言うんだよ。
「何も。何も考えなくていいの。ただじいっと無心でいてほしいわ。そうすれば、沈んでいくもの」
「沈む、とは?」
「いいから黙ってな。うちの葉が今からやってみせる」
 口が悪いなあ。
 相手は報酬をくれる、い
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