隅々に眠る
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いでくれよ分母。収集がつかない……」
このタクシーに乗り込んでから経過した時間を考えてみれば、もう到着していてもいい頃合だった。
ただ進行具合から考え直してみると、それは少し難しいように思える。
ともかく混んでいたのさ。道路が。
急ぎの用事ではないのが幸いで、あとは両脇に控えるこのふたりの人間の、軟弱で脆弱な辛抱がどれだけ持つかという問題になってくるだけ。それだけだった。
「遅くねえ? おいおっさん。いつまで走ってんだよ。金を稼ごうと思ってズルしてもあたしの目はごまかせねえぞ。おお?」
「や、やめろ。運転手さんに絡むんじゃない。あと、そんなにお前の目がすごいならこの状況がわかるんじゃないのか? 道路を見てみろよ」
「うおあ。すげえ混んでる」
「ぷぷっ。節穴をどうやって誤魔化せって言うのよ。バッカみたい」
「あのなあ葉。一々あたしに絡むのはいいけど、後悔すんのはお前なんだぜ? 家に帰って、お前のケツが今より百倍も膨らむほど殴ってやるからな。覚悟しておけよ」
「嫌! 幼女のお尻を殴るなんて、腐ってるよ!」
「こんな時ばっかり幼女面かお前は!」
「なあ分母」
「なんだよ姫希。お前も葉のケツをぶん殴りてえの?」
「そうじゃない。そうじゃなくて、このタクシー代のことだけど。払うのはオレ達じゃないんだ。だからそんなに怒ることもない」
「ええ? タダ!?」
バックミラーに写った運転手の顔がぎょっとしてオレと目が合う。
参った。
そんなつもりで言ったわけじゃないんだが。
「そうじゃない。そうじゃなくて、依頼主さんが代わりに払ってくれるんだと。受け渡し前の電話でそう言ってた」
「すごいわ。なんて太っ腹なのかしらね」
「いや、依頼主はほら、どっかの社長だっただろ。なあ姫希」
「そうだな。言い方が悪いけど、相当金を持っているように見えた」
「すごい車だったものね。一体いくらほど報酬をもらえるのかしら」
「五十万だな! 多分!」
「分母ったらスケールが小さい。二百万よ」
「はいはい、そういういやらしい勘定は各自心の中で勝手にやってくれ。一緒にいるオレの身分まで疑われる」
やがてタクシーは予定を随分と超過したものの目的地へと到着。
広い玄関の大きな自動ドアを超えた先には警備員が立っていて、当然のようにオレ達は声をかけられる。
十歳の少女を連れた男と女がなんの用だと、訝しい目で見られても仕方がないと思う。
「十時に来る予定だった嬢宮(じょうのみや)なんですけど。学長からお話を伺っていませんか」
「ああ、嬢宮様。ええと…………少々お待ちくださいね」
警備員服を着た老獪な男は葉をまじまじと見つめたあと、窓口の後ろへと下がっていった。
「嫌な感じだわ。私がいくら可愛いからって、あんなふうにまじまじと見つめ
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