第六章
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希望は現実となり現実はやがて不安となる、希望となり出て来たローエングリンになっているイエルザレムはというと。
やはり彼も希望であり現実だった、だが。
それは苦しみとなった、それでだった。
二人は不安と苦しみの中で遂にだった、告白の時を迎えた。
ローエングリンは己の名と素性を歌いエルザに背を向けて聖杯の城に戻る、エルザは彼を呼び止めようとするがそれは適わず。
悲しみの中で息絶える、舞台はこれで終わった。
拍手とカーテンコールも済みその後の評価はというと。
「今世紀のワーグナー史上に残る名演だったってね」
「言われてるのね」
「うん、評判は上々だよ」
マネージャーはポップに話す、今二人はローエングリンから別の舞台に向かっている。
「大成功だね、舞台は」
「そういうことね」
「嬉しいかな、やっぱり」
「嬉しいわ。けれどね」
「けれど?」
「嬉しい以上にね」
席に座りコーヒーを飲みながらこう言ったのだった。
「ほっとしてるわ、解放されたわ」
「不安から?」
「ええ、そうね」
なっているというのだ。
「そうした意味でもね」
「辛かったんだ」
「辛かったわ、他の作品の他の役よりもね」
「じゃあこれからは」
「出ないかっていうのね」
「そうするよね」
マネージャーは人は辛いものからは避けるという習性からポップに問うた、人はあまりにも辛いとその苦しみから逃れようとするものだ。
ポップの言葉にはそれが感じられた、それでこう問うたのである。
だがポップは微笑んでこうマネージャーに答えた。
「いえ、これからもね」
「エルザを歌うのかい?」
「ええ、そうさせてもらうわ」
「辛いのに?不安で」
「確かに辛いわ。それでもね」
だが、だというのだ。
「人は誰でも不安を持ってるわよね」
「それはね」
マネージャーも否定しない、それはその通りだ。
「僕もあるよ、何かとね」
「そうでしょ、そして辛いものでもあるわよね」
「うん、確かにね」
「だったらね、その不安と辛さを歌っていきたいのよ」
「それでエルザを歌いたいんだ」
これからも、マネージャーは言外にこの言葉を入れてポップに問うた。
「そういうことなんだね」
「それでなの」
「成程ね、そういうことなんだ」
「あれだけ不安を出したヒロインはないと思うし」
ローエングリンは苦しみ、それぞれだった。
「それならね」
「そういうことだね、じゃあね」
「ええ、これからも歌うわ」
エルザはにこりと笑ってマネージャーに言った、それと共にこうも言った。
「それにやっぱりね」
「お姫様になれるからだね」
「本物のお姫様だから」
女の子なら誰でも憧れるもの、だからだというのだ。
「是非共ね」
「そういうこ
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