第一章 土くれのフーケ
第六話 “虚無”と“ガンダールヴ”
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トリステイン魔法学院の学院長室は、本塔の最上階にある。その中で、重厚な作りのセコイアのテーブルに肘をついて気の抜けた顔で鼻毛を抜いている、いかにも暇をもてあました白く長い口ひげと髪をたくわえた老人が、学院長のオスマン氏であった。
そして、部屋の端に置かれた机に座って、オスマン氏とは対照的に真面目に書き物をしている、緑色の長髪が綺麗な女性が、学院長秘書のロングビルである。
オスマン氏は横目でロングビルを見やると、水ギセルを魔法で取り出し、口元に運んでいく。
しかし、オスマン氏がくわえる寸前に、水ギセルはロングビルの手元に収まってしまった。彼女が羽ペンで水ギセルを操ったのだ。
ロングビルが、呆れたような声でオスマン氏に注意した。
「オールド・オスマン。水ギセルはこれで十二本目ですよ。健康のためにもご自制ください」
「ふう……まだ若い君にはわからんだろうが、この歳になると、一日をいかに過ごすかが何より重要な問題になってくるのじゃよ」
オスマン氏は眉間に皺を作り、重々しく目を瞑りながら、机で書き物を続けるロングビルにさりげなく近づいていく。
「だからといって、たびたび私のお尻を撫でたり、ご自分の使い魔を悪用なさるのはおやめください」
そう言いながらロングビルは、足元にいる小さなハツカネズミを踏みつけ、オスマン氏に向け蹴りつけた。
目論見を見破られたオスマン氏が、自分の肩に乗ったハツカネズミにナッツをやりながら、いかにも哀愁漂う様子で話しかけた。
「おお、この年寄りの数少ない楽しみを奪うとは……老いぼれはさっさと死ねということか。わしが心許せる友達はもはやお前だけじゃ、モートソグニル。して、今日の色は?」
モートソグニルは、ちゅうちゅうと鳴いた。
「おお、そうか今日も白か。しかし、ミス・ロングビルは黒が最も映えると思わんかね?」
「オールド・オスマン」
ロングビルの、絶対零度を思わせる声がした。
「今度やったら……刺します」
「ブフッ! なっ何が刺すじゃ、まずは王室に報告じゃろッ!」
ロングビルはメガネを外しながらオスマン氏に怒鳴り付けた。
「これまで何度言ったと思ってんだっ! このエロじじぃっ! 王室にはもう何度も報告してんだよっ!」
「 カアッ! 王室が怖くて魔法学院学院長は務まらんわッ!」
オスマン氏が目を大きく見開いて怒鳴った。その迫力は、百歳とも、三百歳を超えているとも噂される老人のものとは思えなかった。
逆ギレしてんじゃねぇよこのエロじじぃ……。
いきなり怒鳴り付けてきたオスマン氏にロングビルは呆れてしまった。
この気力と精神力の強さがオスマン氏のメイジとしての実力を物語っているとい
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