第二章
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「そうじゃないかい?」
「そうね、それはね」
「それじゃあいいね」
モスコミュールを一つ私の前に出して誘いの笑みを述べてきた。
「今夜もね」
「楽しませてもらうわ」
私達はまた夜を楽しんだ。夜の長さをこれだけ感謝したことはなかった。カクテルにベッド。私はこの日も夜の宴に溺れた。
そして朝になるとまた彼はいなくなっていた。私はそのことにまたくすりと笑うだけだった。
私達の関係はこうしたものだった。私は毎日バーに来ていたけれど彼は時々だった。会えば飲んでベッドの中に。私達は何時しか夜の恋人同士になっていた。
その夜の相手にある日私は言った。カクテルの後で頼んだウォッカを飲みながら。
ウォッカはロックにしている。それを飲みながらの問いだった。
「あのね」
「あのねって?」
「私は勘で言ってるけれど」
隣で私と同じウォッカのロックを飲んでいる彼に言った。
「貴方この街の人じゃないわね」
「じゃあどうしてこの街にいるのかな」
「単身赴任ってところかしら」
私は勘が教えるまま彼に言った。
「それで本来の家はね」
「言わないでおいた方が楽しいと思うけれど」
これが私の勘に対する彼の返事だった。
「違うから」
「秘密は秘密のままってことね」
「そうさ。それでどうかな」
「言うわね。面白いわ」
「面白かったら余計にね」
彼ははぐらかしが美味かった。そのうえでの言葉だった。
「秘密は秘密のままで」
「そうした方がいいからこそ」
「それ以上は言わない方がいいと思うけれど」
「駆け引きかしら」
私はウォッカのグラスを手に彼に問うた。
「それは」
「いや。言いたくないだけさ」
「それだけ?」
「そうだよ。何もかもをね」
「どうしても言わないつもりね」
「言う必然性も見出せないしね」
私達はあくまで夜だけの付き合いだ。夜だけ遊ぶそうした関係ならそうしたことをお互いに知ってもだった。それは確かにそうだった。
私もその言葉を聞いてこう言った。
「じゃあもういいわ」
「それでいいね」
「ええ、納得してあげる」
少し意地というかそうした反発心めいたものを見せて返した。
「そういうことでね」
「そうね。それじゃあね」
「今夜もね」
私達はお互いのことは勘で終わらせてそうして遊び続けた。本当に夜だけの遊びだった。
その関係が暫く続いたある日のこと。私は彼に言われた。
「明日からね」
「明日から?」
「ここには来なくなるよ」
このバーに、というだけじゃなかった。
「もうね」
「来なくなるのね」
「そうさ。そうなるから」
「つまりそれは」
私からそれは何かと言おうとした。けれどその前に。
「いえ、もうね」
「言わないんだな」
「それにこれ以上
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