第一章
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禁句
夜の街、よりによってそんな場所で知り合った。
夜の街にいる男は遊んでいる、しかも顔がよくて格好をつけていればつけている程。
彼の仕事は銀行員らしい。けれどその香りは銀行員のものではなかった。
オーデコロンをつけているだけじゃなかった。その香りは危険な遊びをよく知っている男の香りがした。その彼が私に声をかけてきた。
「今暇かな」
「暇だったらどうだっていうのかしら」
私もその彼に思わせぶりに返した。大人の男という感じでダンディに決めている彼に。
「それで」
「遊ばないかい?」
彼は私が読んでいる言葉をそのまま言ってきた。
「今夜は」
「そうね。遊ぶのなら」
私は思わせぶりな笑みで話していく。
「派手に遊ぶ主義だけれどいいかしら」
「飲むのかい?」
「お酒だけじゃないわ」
私はまた彼に言った。彼は何時の間にかバーのカウンターに座っていた私の横に来た。少し図々しい感じがした。
「他のこともね」
「言うね。じゃあ」
「夜は長いわ。長いだけにね」
「色々と遊べるよね」
「言いたいことがわかるかしら、私の」
「わかるつもりさ」
彼も私の考えを読んでいた。そうして言ってきた言葉だった。
「じゃあ今夜は。夜は長いからね」
「楽しませてくれるわね」
「勿論。じゃあね」
彼は不敵に笑って早速カウンターの中にいる若いバーテンにカクテルを注文した。モスコミュールを二つ。それから。
私達は夜に遊んだ。気付けば朝になっていた。
ベッドの中で濃厚な紫の退廃の匂いを感じながら起き上がるともう横には彼はいなかった。その代わりにだった。
ベッドの枕元には置手紙があった。そこにはこう書かれていた。
『また機会があれば』
遊ぼうと書いてあった。昨日のことは夢の様だった。
けれどこれが夜の遊びなのはわかっていた。私はくすりと笑ってそれでいいと考えてそのうえでベッドから出てシャワーを浴びてオフィスに向かった。朝の世界に入った。
朝と昼は仕事をしてまた夜になるとバーに入る。するとだった。
また彼が横に来てこう言ってきた。
「今日もここにいたんだ」
「今日もここに来たのね」
私は横に座ってきた彼に悪戯っぽい微笑みで返した。
「狙ってたのかしら」
「狙ってないって言えば嘘になるね」
彼もまた悪戯っぽい笑みで返す。ポマードか何かで丁寧に後ろに撫で付けた黒い髪が光るのもまた夜らしかった。
「そう言うとね」
「そうなのね」
「ああ。それでだけれど」
「ええ、今夜はどうするのかしら」
「同じことをしないかい?」
今日もバーテンダーにモスコミュールを二つ頼んでからの言葉だった。
「飲まないかい?」
「飲んでからね」
「そう、楽しもう」
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