暁 〜小説投稿サイト〜
おいでませ魍魎盒飯店
Episode 3 デリバリー始めました
テンチャークエスト
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「ほふっほふっ」
 だが、テンチャーはそれでも諦めず、地面に残る僅かな匂いを頼りにポメの追跡を開始する。
 なんとも呆れた執念深さだ。

 ――いい加減諦めればいいのに、しつこいニャ!
 そのスピードを緩めながらも、再び始まる鬼ごっこ。
 逃げようと思えば逃げられないわけではない。
 だがこの粘着質な生き物は、たとえポメが森を離れて街に帰ろうとも、きっとどこまでもポメの匂いを追い続けるだろう。
 途中で大きな川でもあればよいのだろうが、ポメの記憶する限りでは小さな小川がいくつかあるぐらいだ。
 まぁ、いざとなれば街に逃げ込めばいいし、そうなれば街の衛視がこの化け物を片付けてくれるだろうが、その後で誰がこの化け物を街に招いたのかという詮索が始まる。
 それだけは避けたかった。
 別に街の衛視は怖くないのだが、その結果としてやってくるキシリアの御仕置きがなによりも恐ろしい。

「そろそろ決着をつけるかニャ」
 いずれにせよ、ポメはこの化け物を倒し、キシリアの元に肉を届けなければならないのだ。
 逃げることは意味がない。
 決意を新たにすると、ポメはわざと匂いを残しながら森の外れ、小高い丘陵へと足を向けた。

 そして彼――ケットシーの族以外においてもそれなりに名の知れた武等派妖精であるポメが決戦の地に選んだのは、森の中の大地の切れ目、見晴らしの良い崖の上だった。
 背水の陣ならぬ背崖の陣。
 逃げ場のないこの場所に一人佇み、彼は自らの敵を待つ。

 待つこと10分ほどだろうか、薄暗い森の奥から、緑の燐光を纏った魔眼が鬼火のように揺らめきながら近づいてくる。
 ――すでに視力も回復したか。
 かの輝きは、ポメの与えたダメージが全て回復していることを示している。
 やつの魔眼は確かに厄介だが、幸いなことに即効性ではない。
 ならば、やつの魔眼にとらわれる前に、全ての決着をつける!

「ほふぅぅぅぅぅぅ……」
 地獄の亡者のように陰々と尾を引く声を上げながら現れた巨体は、崖を背にしたポメの姿を認め、微かに嗤った。

「よぉ、遅かったニャ、化け物。 早く遊ぼうぜ」
 唇の端だけでにやりとポメが笑うと、テンチャーは聞くだけで頭がおかしくなりそうなテンションで奇声を上げ、地が砕けんばかりに激しい足音を立てて走り出した。

 ドクドクと波打つ視界の揺れは、自分の高鳴る鼓動のせいか、それともやつの脚が大地を蹴る振動か。
 血は沸騰せんばかりに熱く泡立ち、頭の中は痺れて感覚がなくなりそうなほどに凍り付いていた。
 心を満たすのは、紛れもない"歓喜"。

 あぁ――懐かしい鉄火場の匂いだ。
 なんと心地よい。
 この世の何よりも墓場に近い空気、安寧の幸せを忘れた修羅の吐息。
 迫り来る死神の手をとり、
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