アインクラッド 前編
加速しだす歯車
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を後ろへ移動させた。マサキの体がぐらりと後ろに倒れ、逆に光に包まれた右足が振り上げられる。マサキの超人的な頭脳によってタイミングと軌道を正確に計算、コントロールされた《弦月》は、ちょうど通りかかったゴブリンの右腕を下から撃ち抜き、握られた剣を弾き飛ばした。
「ぐるあっ!?」
武器の取りこぼしを悟ったゴブリンが目を丸くするが、もう遅い。上方から響いた「スイッチ!」という掛け声に続いてマサキが離脱、見るからに重そうな大剣を持ったトウマが、数秒前までマサキがいた場所に文字通り“落ちて”きた。
重さと威力という両手剣の特長を生かした高所からの急降下攻撃である、単発重攻撃スキル《メテオ・フォール》。自らの質量をそのまま威力に変換したその攻撃は、7割近く残っていたゴブリンのHPを、余すことなく吹き飛ばした。
――マサキが隙を作り、トウマが仕留める。これが、二人が確立した戦闘スタイルであり、そのスタイルのため、半ば自動的にマサキのビルドは敏捷一極に、トウマは筋力8:敏捷2という筋力優位になっていた。
「うっし! 一丁上がり!」
「……ほら、さっさと行くぞ」
ポリゴンの破片に姿を変えたゴブリンの前でガッツポーズをするトウマに短く声をかけてから、マサキは先へ歩き始めた。トウマがそこへ走って追いつき、横に並んで歩く状態になる。
「……マサキ。オブジェクト、“重く”なってきてないか?」
「……お前もそう思っていたか」
30分ほど迷宮区内を探索した時、トウマが神妙な面持ちで口を開いた。辺りを見渡すと、岩に苔が自生していた迷宮区低層とは違い、重苦しい威圧感を放つ漆黒の岩石が周囲を覆っていて、それらには多少の彫刻まで施されている。
「恐らくは……」
マサキの言葉の後半が口にされることはなかった。それよりも先に、回廊に鎮座する両開き扉を二人が発見したためだ。二人は小走りで扉に近付き、しげしげと眺める。
「マサキ、これって……」
「ボス部屋だろうな、間違いなく」
マサキの言葉が、二人の間の緊張の糸をピンと張り詰めさせた。マサキの隣で、トウマがゴクリと生唾を飲み込む。
「一応、軽い偵察だけしておこう。偵察の偵察みたいなものだ。……転移結晶は?」
「ん、大丈夫、ちゃんとある」
「よし。……何か危険を感じたら、単独でも必ず転移しろ。後のことは考えるな」
「了解。任せろ」
トウマは真剣な顔で頷くと、一転して顔を綻ばせた。
「――何しろ、優しいマサキが一緒だからな。絶対に大丈夫さ」
いつもの笑顔で言うトウマとは反対に、マサキは不機嫌そうな表情を浮かべた。そして、苦いものを吐き出すかのように言葉を発する。
「……一つだけ、忠告しておく。……あまり他人を信用しすぎな
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