アインクラッド 前編
加速しだす歯車
[2/6]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
「……マナー、悪いぞ」
ささやかな皮肉を込めてマサキが言うが、トウマはそれに気付く様子もなくまくし立てる。
「十八って、同い年? ……え? 大学は? 科学者って博士号とか要らないの? ってか、高校は?」
「ひとまず落ち着け。そして座れ。……まず、博士号は持ってるぞ。中学卒業と同時に論文を書いて、論文博士号を取得したからな。で、大学と高校には行ってない。だから、学歴的に言えば、俺は中卒ということになる」
マサキの口から発せられた、あまりにも現実からかけ離れた言葉を理解するのに、トウマは数秒の時間を要し、それが逆に彼の行動を落ち着かせた。
トウマはコーヒーの最後の一口を口へ運ぶマサキの視線に導かれるように、呆けた顔のままで腰を下ろした。
「……なんか俺、マサキと一緒にいちゃいけないような気がしてきたよ……」
「おいおい、人を化け物みたいに言わないでくれよ」
空になったカップを置くと同時に、マサキは肩をすくめておどけて見せた。すぐ後に喉の奥からこみ上げてきた不快な苦味を舌で押し戻し、薄い笑みを顔の表面に貼り付けたまま立ち上がる。しかし、強引に押し戻したためか、苦味はすぐさま口腔に舞い戻り、それに耐えられなくなったマサキは振り向いた後に表情を歪めた。
仕事での打ち合わせ、あるいは交渉事の席などでよく使う、慣れきったポーカーフェイス。にもかかわらず、今回はその表情を保ち続けることが出来なかった。
胸の中で舌打ちをして、食堂の出口へ向かって歩き出す。
「マサキ、いつ出る?」
「30分後はどうだ? 場所は建物の出入り口だ」
「ん、りょうかーい」
(…………チッ)
マサキは背後からの声と、付随して自分に向けられているであろう笑顔、同時に味覚を刺激する苦味、胃がもたれたような違和感を音に出さない舌打ちで掻き消すと、苦々しげな色を浮かべたまま、いくらか喧騒が和らいだ食堂を後にした。
「……ハァ……」
部屋に着くなり、マサキは盛大な溜息を吐いた。寂しげな空気の振動が、誰もいない部屋に充満していく。
――何かがおかしい。
落ち着いた色調の天井を眺めるマサキの頭に、そんな思考が広がった。約半年前、トウマと出会ってからと言うもの、願望でも、感情でもない。もっと単純かつ原始的な……そう、例えるなら食欲や睡眠欲のような欲求が自分の中に居座っていて、最近になってそれが更に顕在・表面化してきたように感じられる。今朝の夢などはその代表例だろう。
「……ハァ……」
今朝に入って既に四度目の溜息を吐いたマサキは、頭にのしかかる重い思考と胸の中に広がるどろりとしたもやに耐えかねて、数歩先のベッドに倒れこんだ。質の悪いマットレス程度には改善された柔らかさが、ぼふっと音を立ててマサキ
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ