差し伸べる手
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少ししかユウキと一緒にいないものの、性格の一端くらいならわかる
だからカマをかけて一気に踏み込むことにした
強引なやり方なのは重々承知している
しかし、ユウキの様子を見るに、もうさほど時間は残されていないことが読み取れた
「……いや、いきなりなにを言ってるのかな?ボクにはよくわからないけど」
「とぼけても無駄だ。最初に聞いたVRの経験年数。あの年数に達するためにはナーヴギアが発売される前からVR関連に携わっていなければ不可能だ。そこから導き出される答えはユウキがターミナルケアの過程でメディキュボイトを使用している場合。もしくは政府や開発者側の立場にある場合のどちらかしかない」
「……そう……だよ……。ボクはメディキュボイトの被験者。現実では歩くことすらままならない病人」
そう言うユウキの顔には今まで浮かべていた元気な笑みはなく、のっぺりとした無表情になっていた
固く握りしめられた手はブルブルと小刻みに震えている
「でも……それを知ってどうするの?病院の先生たちみたいに励ましの言葉でもくれるの?」
「残念ながら、励ましの言葉をかけるだけで満足するような簡単な性格じゃないぞ、俺は」
「……無理だよ。ボクはもうすぐ死ぬ」
「簡単に死ぬなんて言うんじゃない」
「簡単になんて言ってない!」
無表情が崩れ、その奥から激情が迸る
「ボクだって……ボクだって……死ぬのは怖い。だから、どんな治療だって受けた! どんなに苦しくても、どんなに痛くても、死なないために、生きるために!」
ユウキの瞳から涙が溢れ、頬を伝って地面に落ちる
やがてユウキは動きを止めると消えていくような小さな声で呟いた
「……でも、全部無駄だった……」
「……」
「この間ね。ボクの親戚の人が会いに来たんだ。それで、ボクに遺書を書いて自分たちに財産を譲れって言われたよ」
ユウキは今まで笑顔の裏に、どれだけ深い傷を抱えてきたのだろうか?
死を身近に感じ、心無い親戚には遠回しに死ねと言われる
「ねぇ、リン。こんなボクに生きている価値ってあると思う?」
「……当たり前だろ。少なくとも俺はユウキに会えて嬉しかった」
「そっか……」
アルン周辺の草原に沈黙の帳が降りる
雰囲気は重い
俺もユウキも一言も喋らず、アルンにある世界樹をしばらく見つめていた
「……生きることへの未練なんて、もう残ってないと思ってたんだけどな……」
「ユウキ……」
「リン……ボク……まだ死にたくないよ……」
「だったら一言、言えば俺は全力を尽くす。道を作るのが俺の仕事だからな」
「……助けて。リン……ボクを助けて……」
「ああ……わかった」
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