act-1"the-world"
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を避けるには既に遅く、浸透しきった「ユウトはミノリをお姉ちゃんと呼ぶ」と言う事実は瞬く間にコウスケの耳に届き、今回もまた、嫌みをたたき込まれることとなった。
その事実を突きつけられる度、ユウトは痛感する。「僕はいつまでお姉ちゃん子なんだ」と。
「……なんで、って…なによ」
言い淀んだユウトに不満げなミノリは厳しい視線で彼の目を見据えた。彼を非難するような視線。それでいてどこか慈しみを含んだ視線。―それが彼には苦痛だった。
「なんでもないよ」と彼女の視線から目を外しながら答えると、砂埃にまみれた文庫本を拾い上げ、手で表面の砂を払った。どのページでコウスケからの妨害を受けたかは感覚で覚えている。指先でおおよそのページを開くとその前後に該当するページを見つけ、スピンを挟み込むとショルダーバッグにしまい込んだ。―もう今日は読書を続ける気分ではない。「もう教室に戻るよ」と告げると、ハンカチでこめかみを押さえながら、昇降口へと向かった。
「ッ…ユウト!保健室に行かなきゃ!」
「大丈夫だよ…血も出てないから」
「多分」ユウトはミノリに聞こえないように小さく付け加え、歩を進める。頭がずきずきする。午後の授業に支障がなければいいが。そもそもこのモヤモヤとした気持ちで午後の授業を受けられるか。ミノリの声を背に受けながら、考えるのはそればかりだった。
「ッ…いててっ……」
「少しぐらい我慢しなさい。男の子でしょう?」
ミノリの強引さは子供の頃から味わっているつもりだったが、手負いの相手にも一切容赦をしないというのはさしものユウトにも予想外だった。昇降口をくぐった時点で彼女の手はユウトのショルダーバッグを掴んで離さず、半ば引きずり込むようにして彼を保健室へ連れ込んだのだ。だが、今回もその強引さは正解だった。コウスケによって見舞われた一発によって彼のこめかみは擦り切れ、僅かだが出血を伴っていたのだ。すぐさま保険医、クスノキ キョウカが傷口を消毒し、その隣ではミノリが「言わんこっちゃない」、「隠しきれると思ってたの?」、「ばい菌が入ったらどうするの!」とお小言を並べ、その度にキョウカから注意を受けている。
「はい、これでおしまい」消毒を終えた傷口の上に防菌パッドを貼り付けると、キョウカの手がユウトの頬を一度撫でる。頬を赤らめたユウトが軽く頭を垂れると、キョウカは優しげな笑みを浮かべ、備品を片付けながら二人に問うた。
「今日はどうしたの?またドウミョウジくんにやられた?」
「そうなんですよ!ドウミョウジの奴またユウトにちょっかい出してッ…ホンットにヤな男ですよ!あんなのがうちのサッカー部のエースなんて……!」
「だいたいドウミョウジの奴は―」語気を強めたミノリは溜まりに溜まった不満をキョウカにぶちまける。要
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