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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十八話 日常の終わり、軍人として
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く首を横に振った。
「殿下、これは政治的判断です。本領軍は昨今大きな戦がありません。
この戦の軍功を東方辺境領軍のみで独占するわけにもいかないでしょう。
既に元帥・大将達の間で反発が出ているとレヴィンスキィ元帥が伝えて下さったのは覚えていらっしゃるでしょう?」

「厄介な事、あの爺様連中、いい歳してご達者過ぎるんじゃない?」
 ユーリアは辟易とした様に云った。
「放っておくのも問題ですし、此方の懐が苦しいからこその戦でもあります。
陛下におすがりし、増援の本領軍に武勲を分け与える方が双方の益にもなりましょう」
 ――予算が苦しいからと増税を行なっては本末転倒だ。
 メレンティンの危惧は正鵠を得ている、領の広大さに反比例するように、その経済基盤は弱体なもので、東方辺境領の経済は農奴に頼るところが大きい、治安維持を行っている部隊を<皇国>へと投じた上で増税を行うのは近年増加している暴動に油を注ぐようなものである。
「気に入らない、まったくもって気に入らないわ。帝都で頼れるのがレヴィンスキィの爺様だけというのも気に入らない。また、何時の間にか毟り取られそうだもの。あの爺様、性格が悪い上に頭も口も回るから始末に負えないのよ」
ユーリアの言葉にメレンティンは苦笑を浮かべた。
 ――まぁ、一代で田舎郷士から伯爵元帥になった傑物だ、まだまだ姫の上手でしょうな。

「――まぁ、私の領に対する負担が軽くなるのならば良い話と考えましょう。
貴方の事だからもう見積もりは作っているのでしょう?」
 微笑を浮かべた姫をみて初めて安堵の息が漏れた。
「まず弾薬を二十基数、完全編成の銃兵二個師団、攻城砲兵を六個大隊。
これらをオステルマイヤー元帥とユーリネン大将の指揮下部隊から融通して貰いましょう。
これに加えて前回不足した揚陸用の船舶とその護衛。そして――」
「・・・まだあるの?クラウス、今からだと大半は夏には間に合わないわよ?」
 いくらなんでも頼りすぎではないかと言いたげにユーリア姫が眉をひそめる、だが彼女の頼りにする初老の参謀長は自信に満ちた笑みを浮かべてそれに応えた。
 ――だが、相手はただの屑札と考えているらしいが私の勘が正しければこれからの戦争の主導権を握る為の切札に化ける可能性のある手札だ。
「はい、私が考えるには弾薬とこれさえあれば他は必要ないかもしれません。」



五月二十一日 午前第八刻 馬堂家上屋敷第三書斎
馬堂家嫡男 馬堂豊久


 ――さてと、これで陪臣将校の再誕だ。
軍装を着た鏡像を睨みながら溜息をついた。齢を二十七に増やして早数日。
生誕して二十七年目となる記念日を皇都で過ごせただけでも僥倖である、と思いながらも休暇を切り上げて前線送りがいよいよ現実味を帯びてきた事は、憂鬱極まりな
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