十三 逢着
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されるのは道化のほう。誰も横島を見ていない。
泣きたかった。けれど涙はなぜか流れず、横島忠夫という道化の人生だけが流れてゆく。しかしながら十七年間過ぎれども、素の人生は幼い頃の姿のまま残っていた。いつまでも幼きあの日に見たピエロが、横島の隣で踊り狂っている。
いっそ狂いたかった。しかしながら狂うほどに心が乱れないのは、狂う事が甘い考えでただの逃げだと理解していたから。
精神的負担が横島を押し潰し、正常心を保つのがやっとといった日常をやり過ごす。心に深く刺さった棘が彼をじくじくと蝕んでいるのに、心に視えない痕を残しているのに、それすら誰も気づかずに横島を笑っていた。
罵りや愚弄する言葉は無数の弾丸となり、彼の心に穴を穿つ。
「……―――俺に道化を被るなと言っといて、自分は演技を止めないのか」
そして今は、ナルトに言われた言葉が脳内でぐるぐると渦巻いていた。
その言葉の意味は理解できても、横島にはどうすればいいのかわからない。深く根付いた木の根が土から離れられないのと同じく、世間が求める横島忠夫像が心にびっしりとこびりついているからである。
己だけがどうしてこんな偽りの生活を送るのかと悲劇のヒーロー気取りの自分が、被害者ぶっている自身が、そうしてなにより情けなく心に鬱憤を溜めこんでへらへらする己が横島は嫌いだった。無意識に自己嫌悪し、知らぬ間に自嘲する。だから道化と本当の自分との差が理解出来ないのだ。
それ故に二重生活を為すナルトの存在が、横島の心を癒していた。
自分だけじゃなかったのだと。苦悩する己と同じ境遇だと勝手に思い込んで。道化の面を被る彼と自身を身勝手にも重ね見て。
そうして気づいた。今は自分を知っている者は誰もいない。世間で認識されている横島忠夫像を演技しなくてもよいと、道化の面を外してもいいのだと。
現にナルトと出会って、横島は徐々にだが変わり始めている。
「……俺は俺らしく、か…」
ぐつぐつと煮立つ鍋をじっと見つめながら、横島はぼそりと呟いた。独り言は鍋から沸き立つ熱気に溶けてゆく。
窓から外を覗くと空には既に白く月がかかっていた。その黄金色に、今はいない金髪の子どもを思い描く。
「ナルトは強いよな……………俺もアイツみたいに…」
―――――強くなりたい――――――
はっと顔を上げ、自分が考えた事に驚愕した。どうして今更そんな事を……。
馬鹿な考えを打ち払うように頭を振って、彼は目の前の鍋を見つめた。
カラリと屋根の瓦が音をたてる。その音は伏したハヤテの耳元で響いた。
朦朧とした頭で腕を持ちあげようとしたが身体は一向に動かない。どくどくと流れ出る血が己の完敗を主張し、同時に命に係る出
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