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SAO−−鼠と鴉と撫子と
32,いつか、また……
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は今まであったギルドメンバーを示すマークはもうない。
小さな変化かもしれないけど、何が起こったのかを示すには十分すぎた。

「サチ、最後だから挨拶を言いに来た」
「そっか……」

そう言ったきり、サチはまた黙りこんでしまった。
二人の間に、夕暮れ時特有のしんみりとした空気が流れ込む。

だけど、どれだけこの時間が続いても、キリトが迎えに来ることはもう無い。
二人して、ゆっくりと時間が経つのをただ呆然と過ごしていく。

「ねぇ、クロウ。生きていることっていいことあるのかな?」
「突然だな」

お互いに向かい合いながらも、目を見ることのない会話。
聞こえる声は湿り気を帯びているけど、それでもどこか芯がある。

「みんなバラバラになってく。ダッカー達は死んで、キリトとクロウはいなくなって……けどね、きっと大丈夫だよ。ケイタと二人で、頑張って生きてみる」

サチは笑っていた。
ケイタみたいに心が壊れたわけじゃなく、零れ落ちそうな涙を必死に堪えて、ムリヤリ笑っていた。

無理するな、と口から出かかった言葉を必死に飲み込んだ。
俺はギルドを追放されて、サチを支えることは叶わない俺がそんな安い言葉を吐いて何になる。

ケイタと俺とキリトがバラバラになった以上、サチは誰かを選ばなきゃいけない。
そして、サチは一番苦しんでいるケイタを支えると決めた。
ケイタを救えるのはこの世界でサチ一人。悲しみを全部理解して、一緒に泣いて、また一緒に立ち上がれるのはサチしかいない。

そんな重大な役目があると分かっているのに、出て行く俺たちにすら心配をかけまいと、躊躇なく別れられるようにと笑顔を作っている。

これが無理でなくて何なんだ。
無理するななんて、無理しなきゃどうにもならないのに、どうしてそんな事を言える?

こんな優しい少女ひとり救う術を、今の俺は知らない。
だったら、その心意気だけでも無駄にしないようにと、俺も必死に笑顔を偽造した。

「ねぇ、クロウ。いつか、みんなで前みたいに笑いあえる日がくるかな?」
「……ああ、来るさ。きっといつか!!」

安い言葉だ。
未来のことなんて、誰にも分からない。

だからこそ、叶えるんだ。
今の俺に救えなくても、未来の俺はきっとこの子を救えるから。
心のなかで、静かにそう決意した。


そのとき、俺の後ろから人影が差し込んだ。
サチの顔が期待に膨らんで、萎み、そしてまた少し膨らんだ。
キリトが来てくれたと思い、人違いで落胆したところまでは分かる。

だが、最後の反応はなんだ?
そう思って、俺も後ろを振り返ると俺はそのまま固まってしまった。

キリトが迎えにきた場所にいたのはサチの迎えではなく、俺の迎え。

フードを被った華奢な姿、
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