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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第三話 猫達の帰還、伏撃への準備
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じゃないか!」
 本人曰くささやかな夢が破れて、無気力に柱に寄りかかっていた馬堂がそれを見て驚愕し、声をあげた。
「値が張るからって守原大将は専門兵科の鋭兵の分すら満足に買わなかった筈だぞ!
 橇二台だから八十、いや、百丁位か? 一体何処から拾ってきたんだ?」

「そういえば、大尉の家は、蓬羽兵商に投資していましたね。」
彼方此方の商売に投資し、かなり儲けているらしく、数年前に手を出したと噂になっている。
駒州内の財政にもけっこうな利益を出しているので駒城公も容認している。

「蓬羽兵商、皇国最大規模の銃器製造会社の蓬羽ですか?」
様子を見に来た西田少尉が目を丸くして馬堂大尉に尋ねる。

「父が陸軍局勤務だからな。口も出しやすい。」
癒着だ、癒着。と愉しげに毒づいている。
――馬堂家は代々、駒州軍の兵站や財政関係で働く者が多いらしい。
大昔から、駒州の馬の管理を一任されていた程の重臣であり、その家格は駒城の譜代でも益満に次いで高い。
 現在の当主、豊久の祖父である馬堂豊長は憲兵出身であり、警察行政を担う内務省との結びつきが強く退役してからは、彼らが運営する天領への投資を行い莫大な利益と政財界の実力者となった衆民達と結びつきを築いている。
そして豊久の父である馬堂豊守は直衛を孤児にした東州内乱で負傷してからは後方勤務を続け、現在では兵部省陸軍局の要職に任じられている。

漆原少尉が思い出した様に口を開く。
「そう言えば馬堂家の方が駒州公の代理として衆民院にいらっしゃったと父が言っていましたね。」
漆原少尉の父は衆民院の議員だ。
――衆民院でも顔を売っているのか。

「馴じんでいただろ。我が家は後暗いのが大好きな家だからな。」
そう言って口を歪めた。

「大尉殿、騎兵砲ではありませんが持って来られた物はありますよ。」
 その様子を面白そうに見ていた猪口曹長が口をひらいた。
「何だ?一応俺の麾下に入る鋭兵は皆、施条銃を装備しているぞ。」

「もちろん違います。擲射砲です。
捕まえた馬を三匹とも使いましたが、ありゃなかなかのモンですな。
砲弾もここに三十発程。砲もそろそろ追いつく頃ですな」
豊久は、感嘆の声をあげて薄らと見えて来た砲を見ようと歩いていった。

「しかし、豊久――馬堂大尉じゃないが大漁じゃないか。本当にどこで拾った」

「迷子になっていた輜重兵どもがいましてね。それも三台の馬艝付きで。
オマケに後方の砲兵旅団から馬を怪我させてはぐれた馬鹿もくっついておりまして。
それで、まぁ、そいつらに道を教えてやったのですよ。」
 ――どの様に教えたのかは聞くまい。曹長の事だ、荷を軽くする気遣いも忘れなかっただろう。
新城は常の仏頂面で頷いた。

「銃は何丁ある。」
「百丁きっ
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