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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第三話 猫達の帰還、伏撃への準備
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幕僚殿の一筆があるから憲兵との交渉に役立ててくれ。
輓馬にする馬の発見場所もこれに書いてある」
 話が進むにつれて新城の旧時代の魔除けの瓦の如き顔がさらに凶相じみた表情へと変じていく、馬堂はそれを堂々と無視して必要なものを強引に押し付ける。
「それでは第二中隊長、貴官が速やかに補充を成功させることを祈る」

 だが、立ち去ろうとするやいなや肩を掴まれる。口元を引き攣らせた豊久の背後から丁重な口調で聞きなれた声が聞こえた。

「艝についても一筆貰って来て下さい、可及的速やかにお願いします――僕も色々と入用なので」

 ――情報幕僚である馬堂大尉は過去の経験から得た情報からこれに逆らうべきではないと即座に決断したことは言うまでもないことである。


同日 午後第九刻
独立捜索剣虎兵第十一大隊 大隊本部 開念寺本堂


「第二中隊の報告によれば敵の先鋒部隊は増援を受けてわが方に接近中である。だが我々は撤退支援の為に後2日は撤退の許可はおりない。このままでは明日には連隊規模以上の敵と交戦する事になる。」

 幕僚会議の結論を伊藤大隊長が述べると集まった20名近い将校達が呻き声をあげた。新城を睨み付けている将校が居るのを見た馬堂豊久は溜息をついた。
 ――無意味な八つ当たりだ。彼が連れてきた訳でも無かろうに。

 伊藤少佐はその全てを無視して述べた。
「結果は分かり切っている誰も生きて故郷には帰れん。」
 もはや誰も声をあげない、新城を睨みつけていた者も目を伏せる。
「さて、それではこれからの大隊長の構想を述べる。説明は戦務が行う。」
 戦務幕僚が立ち上がり先程の会議で決定した夜襲作戦を解説する。
概要は極めて単純なものである、要点は三つ。
・北方六里の地点に大隊主力を配置し、増援を一気に叩く。
・攻撃開始の合図は赤色燭燐弾、最優先目標は、敵本部。
・戦闘時間は、最大でも一刻、撤退時には青色燭燐弾を打ち上げる。

馬堂大尉は正式に集成中隊の編成と指揮権を預かる事を発令されてからは、無言で考え込んでいた。

 ――さて、夜襲・乱戦は剣虎兵が最も活きる作戦である、同数の敵なら白兵戦にさえ持ち込めば損害は皆無のまま一方的に殲滅出来るだろう。

 ――だが、問題は敵の数だ、〈帝国〉陸軍の連隊の規模は〈皇国〉陸軍の旅団規模(四千名)に近い。上手く乱戦に持ち込めても相手が統制を取り戻したら包囲され、剣牙虎ごと蜂の巣になるのは明らかだ。

 ――そもそも、限界を一刻と想定しているが実際はどうなるのか分からない。
それより早く統制を取り戻される可能性はある。こればかりは相手の指揮官次第だ。

 だが、それでも選択肢がないことも理解していた。
この作戦を行ってもなお、敗北するほどの大軍と正面から殴りあう位
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