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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第九十七話  休戦か和平か
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苦いものを呑み込んだような表情をした。

「それに、これからの帝国は長期にわたって女帝が統治する状態が続く。アマーリエ、クリスティーネ、エリザベート、ザビーネ……。彼女達は愚かではないが政治的手腕に優れているとは言えない。その事は彼女達が自ら認識している。戦争の危機が迫った時、交渉によってそれを避ける自信が無いのだ。そしてなし崩しに戦火が拡大し改革が中途半端に終わるのを怖れている……」
呻き声が聞こえた。一人では無い、三人。

帝国の抱える弱点だ。強い皇帝を持てない、そして弱い皇帝を支えて行かざるを得ない……。今はまだ良い、わしが居てリッテンハイム侯が居る。反乱軍にも和平を望む者達が居る、しかもその力は決して弱くない。戦争を避ける事は十分に可能だ。

しかし五年後、十年後はどうか……。我らは生きておらず反乱軍の和平派も存在しているかどうか分からないという事も有り得る。その時、アマーリエ達に交渉によって戦争を避ける事が出来るだろうか? 極めて難しいと言わざるを得ないのだ。

戦火が拡大すれば改革は中断しかねない。解消されかけた平民達の不満はまた帝国中に鬱積していくだろう、そして何時か爆発する。それを防ぐには和平を結び、和平によって得られる利益を、繁栄と安定という利益を帝国と反乱軍、いや自由惑星同盟に示し続けなければならないだろう。

故ヴェストパーレ男爵は正しかった。ヴァレンシュタイン程の男が帝国に居れば、あの男が政府閣僚に居れば何の心配も無かった。エリザベートの配偶者に迎え、帝国の全てを委ねる事が出来ただろう。弱い皇帝を心身共に支える有能で誠実な廷臣を得る事が出来たはずだった、全てが帝国にとって裏目に出た……。

「貴族達は反対するだろう、だがあの連中は反乱軍にぶつける事で始末する。その上で連中の領地を帝国政府の直轄領とし直接支配する。政府の力が強くなれば残った貴族達も改革に反対は出来んだろう。反対するようなら容赦なく潰す」
「……しかし……」

「エーレンベルク元帥、改革に反対する貴族は排除する、そうでなければ帝国は再生できんのだ」
何かを言いかけたエーレンベルクはわしに遮られて押し黙った。シュタインホフ、オフレッサーも黙っている。

「陛下の御意志は和平に有る。本来なら卿らには勅命として命じれば済む話だ。だが陛下は卿らに説明したうえで判断させよと仰せられた。長年戦ってきた相手と簡単には和平は結べまい、和平に反対なら辞職せよ、不満には思わぬと……」
「それは……」
エーレンベルクの顔が歪んだ。他の二人も顔を歪めている。

「自分の前では反対できまい、それゆえ我らに確認せよとの仰せだ。如何する?」
辛かろうな、命じられた方が楽なのだ。だが自分が弱い故に無理を強いる、嫌々協力はさせたくない、それがアマーリエの意思
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