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連隊の娘
第一幕その三
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第一幕その三

「それで育ててもらったんです」
「両親が誰なのかはわかっている」
 シェルピスはこのことはわかっていると話す。
「しかし今では」
「連隊の皆が私のお父さんでありお兄さんです」
「おやおや、また随分とお父さんにお兄さんが多いな」
「何千人じゃないかい」
 村人達は彼女の言葉を聞いて一斉に言った。
「それだけいるのかい」
「じゃあちっとも寂しくないじゃないか」
「私のいる酒保はいつも人が来てくれて」
 マリーはそのこともにこにことして村人達に対して話すのであった。
「朝から晩までいつも周りに皆がいてくれるの」
「そりゃいいねえ」
「この軍曹さんの顔はやけに怖いけれど」
「顔のことは言わないでもらいたい」
 シェルピスはこのことを言われるといささか不機嫌な声になった。表情はあまりにも厳しい顔なのでよくわかりはしない。
「決して」
「あら、気のいい兵隊さんなのね」
「その様ですな」
 侯爵夫人もホルテンシウスもここで安全とわかりこれまで遠くにいたのを近くに寄ってそれでシェルピスとマリーを見はじめる。
「何かと思ったけれど」
「若い娘さんもいるし」
「大丈夫のようですな」
 こんな話をしながら村人達の中に入ってそのうえで様子を窺いだしたのであった。
 シェルピスとマリーは陽気に話している。ここでシェルピスはふとマリーに対して尋ねるのだった。
「ところでマリー」
「どうしたの?」
「最近兵達を避けて誰かと会っていないかい?」
 こう彼女に尋ねるのだった。
「このチロルに来てから」
「ええ、そのことだけれど」
 それを問われたマリーはすぐに答えてきた。
「実はね」
「うん、実は」
 ここで話すマリーだった。その会っている者とは。
「チロルの人なの」
「このチロルの」
「ええ。それで私の命の恩人なのよ」
「命の恩人!?」
 彼女の言葉を聞いて思わず少し大きな声を出してしまったシェルピスだった。そう言われても彼にはぴんと来ないものだったからである。
「マリーの命の恩人だけれど」
「おお軍曹」
「それにマリーもここにいたのか」
 しかしここでその兵隊達が来た。誰もがその手に銃を持ち黒い帽子に青い上着、それと白いズボンという格好である。誰もが髭を生やし髪を後ろで束ねている。フランス軍の格好そのままである。
「丁度よかった」
「不埒者を捕らえました」
「不埒者!?」
 それを聞いてすぐに眉を動かすシェルピスだった。
「そんな奴がいたのか」
「オーストリアかプロイセンのスパイか」
「はたまたイギリスの回し者か」
 どちらにしろフランスの敵である国々だ。
「そうした輩かと」
「怪しいことこの上ありません」
「チロルにオーストリアやプロイセンの者がいる」

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