反転した世界にて5
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今し方、行為に使っていた道具が、急に氷の塊にでもなったかのような錯覚と共に、彼女は現実に帰ってきた。
加えて、彼女の魂に一つのトラウマが刻み込まれる事態へと相成ったわけではあるが。
賢者タイムとは言い得て妙で、頭の中はやたらとクリアになり、今し方まで翔子を狂わせていた性欲などは遠いどこかへと吹き飛ばされてしまったかのごとく、欠片も残ってはいない。
「着替えよ……」
翔子は重い体を引きずるようにしながら、父に言われたとおりに着替えを始めた。
◇
女性の絶頂は長い。一度の絶頂が数分に渡って持続することもざらにある。
更に、一度波にさえ乗れば、女性は何度だってエクスタシーに達することができ、体力の続く限り快感を貪ることができるのだ。逆に、男性の絶頂は短く、また、女性の感じられるモノと比べれば、随分と小ぶりな快感である。しかも、一度絶頂――射精に達してしまうと、よほどのことがない限り、"萎える"という状態に陥ってしまい、しばらく射精することすらできなくなってしまう。男性の中には、この状態のことを"賢者タイム"と呼ぶ者もいる。
その辺り、一般的な女性に比べて、男性が性に対して関心のない理由の一つだと言えるのかもしれない。
それとは直接的な関係はないかもしれないが、女性の"賢者タイム"もまた、男性のソレと比べて、長く続くことがある。
「……はぁ」
夕食を終え、歯を磨き、入浴を済ませて。
翔子は暗くした部屋の中、うつぶせでベッドに突っ伏して、枕にため息を染み込ませた。
――今日という一日の間に、拓郎とした会話なんかを反復してにやけながら。
不意に、友人の忠告を思い出す。
『あんた、今日はやけに赤沢さんにちょっかい出してたけどさ。正直やめといた方が良いと思うわよ、ああいうの』
基本的にポジティブ思考の翔子。
とはいえ。こんな気分だからこそ、考えてしまうこともある。
翔子は、決してメンタルの強い人種ではない。むしろ人一倍傷つきやすく、他人の視線や中傷に敏感であると言える。
『もう少し身の振り方ってのを考えた方が良いんじゃない? あんたのそういうところ、よく思ってない連中だっているんだしさ。ほどほどにしなよ』
言われるまでもなく、わかっている。自分の容姿は、どれだけ贔屓目に見ても醜悪なものだと言うほかない。
そんなのが、クラスに花咲く一輪の花のような少年と、仲よさげに会話などしていようものなら……。
自分なら、嫉妬を覚えずにはいられない。――覚えずにいられないからこそ、勇気を出して話しかけているのだが、今のちょっとダウナーな翔子には、その発想は生まれなかった。
そしてそんな自分を目の敵にしている、好意的でない同級生がいることもまた、彼女は十
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