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シャンヴリルの黒猫
47話「第一次予選 (3)」
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フェアラビットの息を確認してやれやれと溜め息をついたアシュレイは、兎を抱えると森の入り口へと戻った。



******



 鮮やかな手際に、ユーゼリア達は感心すると共に小首を傾げた。

「よくフェアラビットがあの湖に来ると分かりましたね。帝国の国境の砦は獣人以外を国に入れることなんて滅多にないのに」

「ええ……やっぱり」

 ユーゼリアが顔を曇らせた。

(やっぱり、アッシュが記憶喪失なんて、嘘だわ)

「え?」

「あ、何でもないの」

 曖昧な笑みでごまかして、再びユーゼリアは画面の片隅をみつめた。さっきまでアシュレイが映っていたその場所は、今はもう他の選手を映し出している。

 今までなんども「変だな」と思ったことはあった。確かにギルドや五大国をなど、赤ん坊でも知っていることを知らないと言っていたときは記憶喪失といわれても頷けた。あれは嘘をついているようには見えなかったし、多分本当なのだろう。

(でも、有り得ないもの)

 大国の名前すら知らないくせに、なぜシュラが――魔の眷属のそれも第六世代のスレイプニルであるという正体を見破れたのか。エルフのクオリは事情がわかる。だが、彼は、違うはずなのだ。

 ほかにもある。普通、記憶喪失の人物は精神的に不安定になると聞いた。なのに、彼に至っては不安定どころか驚いた顔すら見たことが無いのではないか。いつもこちらを安心させるような微笑を浮かべている。

 上げればきりがないが、兎に角、五大国の名も忘れるような重度の記憶喪失者が、フェアラビットの捕獲方法など知っているわけがない。

 アシュレイは、記憶を失っているわけではない。

(でも、)

 大国の名を、数百年も昔からあるギルドの存在を知らないというのは、本当にみえた。しかしそれにしては彼の言動に矛盾が沢山あった。

(一体どういうこと……?)

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