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全て君だった。
第二話「思い出」

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 ―まぶしい。光がカーテンからもれ彼の顔を照らす。
朝の光だ。彼は、自我のきかないまぶたを無理矢理開けた。
 時間がたつにつれ鮮明になる意識。今までに何度も感じてきた当たり前の感覚。
鮮明になる意識は昨日のことを思い出させる。
自分に生きている意味などないと自覚させられた昨日。
いや、違う。本当は知っていたのだ。
彼自身、現時点で何のために生きているのか分からなかった。
そのことに対し無視し続けていたのだ。
笑える話だ、と思う。
 目の前に対処できないものがあると目をそらし、時によっては昨日のように
眠ってしまう自分。
目をそらすということは現実を逃避することと同じであり、
自分が弱者だと認めているようだ。
 自分自身と向き合うことが嫌になり、そして、違うことを考えた。
何気なくケータイに手を伸ばしデジタル数字に目を向ける。八時十二分。
ケータイのバイブレーションとともに時刻が表示された。
今日は大学が休みだ。
 強い光が窓から差し込み彼のことを照らした。まばゆい光をカーテンで隠した。
月本が、一人暮らしを始めたのは二か月ほど前のことだった。
月本は母子家庭の家で育った。母は彼を愛したことはなかった。
その上、母は弟を愛し、自分は除け者のように扱われた。
お前などいらないと言われた。
そんな彼は高校生になった。母は、自分のことを今まで以上に除け者として扱った。
お前は父に似ていて気持ちが悪いと言われた。
その時、彼は決めた。ここから出ていこうと。
今いる場所からどこかに移れば、何かが変わると思った。
そして、今の大学を志望し、受かり、ここに来た。
これで自分も幸せになれると根拠もなく確信していた。
しかし、現実はそううまくはいかなかった。
手に入れたものは、息苦しいほど静かなこの空間。
ここには本当の音はない。機械の音しかないのだ。
 何とも言えない気分になり、再び眠ることにした。
あいまいな意識の中彼の目から静かに、二粒の涙がこぼれた。
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