十ニ 傷と痕
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の底から体を貫いた衝撃にだけは耐え切れなかった。
己の半身を亡くしたような錯覚。自身の手から蛍の化身が消えていった、あの刹那。
だから、あの時以来、はじめて。
横島は泣いた。
身体に張り付く水が温かい涙をも交わらせ、膝下に広がる湖へ滴り落ちる。
世界から湖だけを切り取ったかのような静けさの中で。
彼は慟哭する。
闇を突き抜けるほど痛々しい声を張り上げ、ただ我武者羅に喚いた。
傍目には、青年が子どものように泣きじゃくり、子どもが大人のように―…外見が逆転したように見えるだろう。
尤もこの場に来た時点で、密かにナルトが結界を張っているため、その心配は無用だ。湖の周辺は姿や声、気配すら遮断されている。とは言うものの、強さは遙かに上でも年下の、子どもの前にも拘らず、横島は涙をぼろぼろ流した。
横島とナルト以外誰もいない。月だけが二人を見下ろしていた。
ナルトは何も言わない。ただ瞬き一つせず、横島の傍で立っている。
見守るように受け止めるように認めるように。
それが横島にはありがたかった。
蛍が一匹、水に波紋を残して、二人の間を横切っていく。
久方ぶりに溢れた涙は塩辛く、けれどどこか甘露のように甘く。
翳む視界の中で、彼はそう感じた…―――。
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