十ニ 傷と痕
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。一度気になるとどうしようもなく臭く感じて、慌ててナルトに倣って服を脱ぐ。ザバンと音をたてて潜り込んだ湖が大小の波紋を描いた。
顔を上げれば、湖の中心にナルトが立っているのが視界に映る。金髪を風に靡かせながら静かに佇んでいるその様は、ぞっとするほど美しい。
加えて天から降り注ぐ月の光が一層、この場を楚々とした絵画へと成らしめていた。
静謐な水面に掛かる月の光輪。
そのちょうど中心に爪立つと、金の環は大きく広がっては水に溶けていく。
水面に映る金と、風に揺れる金は似通っていて。
それはまるで反転世界の月。
幻想的な、それでいて水中と空中の境が見当たらないような錯覚に陥る。
いつ湖底に沈み込んでしまうか、そんな危うげな雰囲気を印象づけられる。
それに柄にもなく焦った横島はわざとバチャバチャ水音を立て、その静謐な風景を壊した。
すい〜…と近づき、未だ水面の上で佇立する白い足首をおもむろに下へ引っ張る。途端バランスを失ったナルトが水飛沫をあげて、どぼんと澄んだ蒼の中に潜り込んだ。
じろりとナルトは水中で横島を睨みつける。沈みゆく身体はすぐ浮上し、彼は大きく空気を吸い込んだ。
しっとりと水の含んだ髪を乱雑に散らす。闇の中で飛散する水は金の余韻を残して、湖へ滴下した。
仕返しとばかりに雫を横島に向かって撒き散らし。どこか勝ち誇ったようにナルトは彼を見上げている。
ぽたぽたと滴り落ちる水が、両者の肌を滑っていった。
はたとナルトの身体を見る。普段あれだけ虐げられ、つい寸前まで血飛沫を浴びていたその肌は、生まれた頃と同じく真珠の如き白を誇っている。傷一つないきめ細かなその白さが眩しくて、哀しい。
横島は自身の身体もふと見下ろした。数多の傷や痕が身体の隅々まで残っている。ちょっとした擦り傷も死の手前まで追い詰めた痕も、月の下でその存在を主張していた。
「…羨ましいな」
ぽつりと、水の蒼に滲み入るほど小さな呟きが横島の口から洩れた。
ぱっと顔を上げたナルトの、湖と同じ蒼に見つめられ、横島は罰が悪そうに言う。
「…わり。でも、なんていうか反省とか後悔の証拠がきれいさっぱり消散されるってなんかいいな…って。その、なんとなしに思っただけだから!」
言い訳じみた言葉を慌てて紡ぐ。
どうしても横島は、傷を見るたび、痕をなぞるたび、苦い懐旧に耽てしまう。
この傷の原因は…あの時こうすれば…あの痕がついた時、この時点でこう動いていたら…気づいていれば…。そんな過去の失態を何度も何度も思い悩み、最後には今更どうしようもないと自嘲する。
そしてまた、傷を見、痕をなぞる。
そんなことを繰り返しても、意味の無い行為だと頭ではわかっている。しかしながら、沸き起こる思
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