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河童
終章
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をねだるのも」
そう言って、私の頭をくしゃくしゃ撫でた。
「だけど自転車だけあってもしかたないだろう。…姶良は、お前のことを今でも慕っている。…姉さんとしてな。お前がここに残る理由は、もうないだろう」
「………」

……あれは、うそだ。

忘れていたなんて、嘘。いっちゃんの事を一瞬でも忘れたことなんてない。全部を忘れ果てた後でさえ、あの子の記憶だけは、いつも胸の疼きを伴って浮き沈みしてた。
首をぎりりと絞めて、体重をかけた私を見つめた、あの瞳。信じてた、大好きだった私に裏切られた絶望が閃き…その直後、頭のいいあの子は全部を理解して、私に殺されることを受け入れて目を閉じた。柔らかい頬を、すうっと涙が伝った。

あの瞬間の顔が忘れられない。

「私は、自分を許してないわ」
雑誌をぱたりと閉じて膝に置いた。気分が変わった、自転車は要らない。
「…お前が、そんなこと言うなんてな」
「いちいち五月蝿い」
「ここしばらく、お前の成長の著しさに、兄ちゃん思わずな」
と、涙をぬぐってるフリをする。紺野はたまに、自分のことを『兄ちゃん』っていう。
「…警告は、受けてたのにね」
もう一度キューブを手に取る。それは相変わらず、掌で軽やかに回転して模様を替える。
「私は結局、砒素の毒にやられたのね。いっちゃんを巻き添えにして」
最後に6面の色を揃えて、キューブを置いた。紺野は目を泳がせて頭を掻きながら、さっきのクリアファイルから書類を取り出す。
「お前が入院してから、親父さんも精神科のカウンセリングを受けた。治療の対象として」
「嘘。受けるはずないわ。あのひとの中では『精神科=キチガイ病院』なんだから」
「そうみたいだな。最初、全力で拒否された。名誉毀損で訴訟を起こされそうになったくらいだ」
「…じゃ、どうやって」
紺野はまた頭を掻いた。…思い出したくないことを思い出してるみたい。
「受けてくれれば、児童相談所を介入させない、という交換条件だ」
「児童相談所…?」
「いやなことを言うが…あの件は、『過干渉』という心理的虐待に分類されるかもしれないんだ」
「………」
「子供の意思や自我を一切否定して、自分の思うがままにコントロールするタイプの虐待だ。虐待をしている本人も、受けた子供も、それを『虐待』と認識していないことが多いから、発覚しにくいし、改善もしにくい」
…そうね。あのひとはいつも、よかれと思って私を束縛してきた。
「だから虐待をした本人に、過干渉は虐待だと理解してもらい、子供の意思を尊重した子育てができるように、カウンセリングを受けさせて教化しなけりゃならない。…つまり、児童相談所が介入すれば、これは児童虐待と認定されるだろうな。だからそれをしない代わりに、カウンセリングを受けろ、と」
…噴き出しそうになっ
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