第四章
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第四章
「本当にね。それができたら」
「止められませんか」
「煙草を吸わないと落ち着かないの」
煙草を吸う人間特有の言葉であった。
「だから。どうしても吸わずにはね」
「左様ですか」
「わかっているのに止められないの」
言いながら懐から煙草を取り出す。それは吸い煙草であった。それと一緒に出したマッチで火を点けそのうえで吸う。そして吸いながらまた言うのだった。
「止めたいけれどそれでも」
「ですが旦那様は」
「それもわかっているわ」
わからない筈がないことだった。
「けれど。どうしても」
「左様ですか」
こんなことを言いながら煙草を吸い続ける。だがここで扉をノックして。そのうえで彼の声がしてきたのであった。
「スザンナ、今帰ったよ」
「えっ、ジル」
「旦那様ですね」
二人はその声に反応した。サンテはただ声の方に顔を向けただけだったがスザンナはびくりとした顔ですぐに顔をあげたのである。
「あの御声は」
「私を疑ってのことなのね」
それを確信したスザンナだった。
「それで今こうして」
「ベルを鳴らされずに」
「大変だわ」
とにかく慌てて煙草の火を消し灰皿に入れその灰皿もテーブルの下にやった。ここでジルが部屋に入って来たのであった。
「スザンナ、いいかい?」
「え、ええ」
煙草を何とか隠したスザンナは平静を装って夫に応えた。
「いいけれど」
「いるのはサンテだけか」
とりあえず部屋を見回して言うジルだった。部屋の中にはローマの風景画と今は春なので何もない暖炉があるだけであった。他には何もない。
「誰もいないな」
「どうかしたの?」
「あっ、いや」
今度はジルが誤魔化す番であった。とりあえず落ち着いた顔に戻ってそのうえで妻に応えるのだった。
「傘を忘れてね」
「傘?雨は降っていないけれど」
「用心の為だよ」
こう言い訳をするジルだった。
「だからなんだ」
「それでなの」
「用心に越したことはないからね」
さらに言い訳を続けて装飾していく。
「だから傘を」
「畏まりました」
彼に応えたのはサンテだった。すぐに一旦退室しそのうえで傘を持って来たのだった。
「これで宜しいでしょうか」
「うん、有り難う」
サンテが差し出したのは婦人用のしかも日笠であったが彼はそれに気付かず受け取った。サンテはそれを見てもあえて何も言わなかった。
ジルは傘を受け取るとすぐに部屋を後にした。スザンナは彼がいなくなってまずは安堵するがサンテはその彼女に対して言うのであった。
「奥様。御気をつけ下さい」
「えっ、どうしてなの?」
「先程の旦那様ですが」
また煙草を出して吸いはじめた彼女に対して言うのであった。
「奥様の日笠をそのまま受け取っています
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