第三章
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て最近思う。
中学校に入学した頃は、みんな同じ感じだったのに、気がついたら琴美だけは、こっそり校則違反の色つきリップクリームを使ったり、普段着に、動きにくそうなミニスカートとかサンダルとかを選ぶようになっていた。
好きなひとがいる…と教えてくれたのは本人じゃなく、他のグループの子だった。
沙耶に言えば『裏切り者っ』て怒るだろうから言ってない。寂しいけど仕方ないかな、と思うし。…恋バナはギブアンドテイクだもの。私や沙耶に話したって、一方的に冷やかされるだけって思われてるんだ。…実際、沙耶はきっとそうする。
最近は私たちといるより、そのグループの子と話してるほうが楽しそうだし、いずれそっちに行っちゃうのかな…。
それに、なんとなく予感しているの。
琴美は、ここから出て行かない。
標準語が上達しないのは琴美の能力が低いからじゃなくて、自分には必要ないって、どこかで分かっているから。
多分ここで何度か恋愛して、いいひとを見つけて、ここで結婚する。そして子供を産んで育てるんだ。
……私は、どうなんだろう。ここを出ること、出来るのかな…
「…なに見てるの?」
琴美の声で、我に返った。
「…うぅん、別に」
その辺を見渡す振りをして、すっと目をそらす。うっすら灰をかぶった大根畑が、一面に広がっていた。その向こうに、いまだにうっすらと噴煙をただよわせる桜島が、静かに煙る。…綺麗、なのかもしれない。
この景色も、仲のいい友達も、可愛いいっちゃんも…お父さんも全部捨てて中央を目指す。私がしようとしていることは、思っているよりも、ずっと大それたことなんだろう。桜島の麓に続く道から、トラックが土埃を巻き上げて走ってくるのを見つめながら、そんなことを思っていた。あぜ道の隅に寄って、目を閉じてスカートを押さえて、トラックが通り過ぎるのを待つ……
「――流迦ちゃん?」
聞き覚えのある声。ばっと顔を上げた。
「おっ、やっぱ流迦ちゃんだ!」
トラックの荷台には、季節外れの桜島大根が満載されていた。その隅っこに追いやられるように屈んでいた青年が、運転席のガラスをこんこんと叩いてトラックを止めると、ひらりと飛び降りた。
「…あなたは…」
「どうした、みんなお揃いで!…えーと、沙耶ちゃんだっけ。今日も可愛いね」
「可愛いね、じゃないですよ。流迦、怒ってるんですから!」
「怒ってるって…もしかしてこれ、偶然じゃなくって…」
「そうですよ!」
沙耶が勝ち誇るように胸をそらした。
「流迦が噂をたどって、探り当てたんですから!桜島で唯一、桜島大根の早生種を作っている、この農家を!」
「へぇ…」
河童と目が合った。自転車のことも勝手に家を出たことも、残らずまとめて文句言ってやろうと思って息を吸い込んだ瞬間、河童が破顔一笑した。
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