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薬剤師
第五章
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振りだが姿を消した。一人になったセンブローニョはさらに忌々しげな顔で言うのであった。
「やはりここは一気に打って出るか」
 こう言うのである。
「グリエッタを妻にする。すぐにでも公証人を呼ぼう」
「あら、そう来るのね」
 ところがであった。彼の後ろの裏手の扉は開いていた。そこからグリエッタが覗いていたのである。
「それだったら私も」
 話を聞いていてグリエッタは扉の陰に隠れて含み笑いを浮かべていた。彼女の頭の中に何かが宿ったようであった。
 センブローニョがグリエッタと結婚する為に公証人を呼んだことはすぐに街中に知れ渡った。その次の日に呼ぶということまでわかりミラノの市民達はそれぞれ言った。
「やれやれ、もういい歳なのに」
「お元気なことで」
「若い嫁さん持つと苦労するのにな」
 あまり好意的には思われていなかった。むしろ笑いものに近い。しかしセンブローニョは本気であり一歩も退くつもりもなかった。
「さて、そろそろじゃな」
 センブローニョは店のカウンターのところにいた。壁にかけてある大きな時計を見ながら店の中をうろうろとしている。

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