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同士との邂逅
十 道化師は哂う 後編
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気なふりを装う。それと相反して、心も精神も魂も愁苦辛勤の闇に囚われ貪られ憔悴していった。
それでも彼は演技の上に演技を重ねて、苦悩の色など一切見せず。観客である周囲の人間を笑わせるため、再び舞台の日常へ、横島忠夫という役柄として舞い戻っていった……――――――――――――――――。














そうしてアシュタロス事件が始まる以前の日常に戻ったと皆が安堵していた頃、横島だけは日々命の危機に陥っていた。

神界・魔界・人間界の三界において、唯一の文珠使いである横島忠夫。
だが同時に彼は十七歳の高校生…未成年のGS見習いである。
アシュタロス事件ではそんな彼を、スパイという戦況を揺るがす大事な任務につけた。それならばそう指示した者が当然責任を迫られる。しかしその責任を回避するために、汚い人間達は真実を闇に葬った……すなわち美神親子を英雄として祭り上げ、真の英雄である横島の事は世間に公表しなかったのだ。

マスコミにより報道された嘘はアシュタロス事件が終わった後も長続きし、横島にはGS仲間のもとにしか居場所がなかった。
学校のクラスメイト達まで率先して庇おうとはしない。道を歩けば裏切り者と誹謗中傷を浴びせられる。
その様子はまるで里から忌避されるナルトとよく似ていた。ナルトのようにあからさまな暴行などはないが、態と聞こえるほどの暴言や罵倒といった悪口雑言は日々絶たなかった。

そしてようやく流れた訂正報道。遅すぎるその発表は「作戦だった」という言葉で締め括られる。
その翌日に横島が学校に行くと、裏切り者扱いをしていたクラスメイト達はGS仲間以外皆「信じてた」などと態度をガラリと変えた。その実、彼の机には[死ね]やら[人類の敵]やら[裏切り者]などと醜悪な落書が書きなぐられている。以前から弄られる対象であった横島は、それにあまり表情を変えず、いつもの通りに笑いに持っていく。

別にクラスメイト達は、横島の事を本当に嫌っているわけではなく虐めているわけでもない。
ただ、面白い反応を返してくれる彼を、いいように弄び、馬鹿にして揶揄しているのである。
いつだってなんだかんだ許してくれる横島だから、皆はその落書の事に対し罪悪感など一切持っていない。故に、笑って馬鹿をする横島の、本心に彼らは全く気づけなかった。



アパートの一室。
扉には[死ね][裏切り者]と、怨嗟の込められた落書が書きなぐられている。教室の机と同じ状況に横島は顔色一つ変えない。
扉を開けて中に入る。そうして、薄い壁故に隣室に聞こえないよう声を押し殺す。低く低く押し殺した、ほんの微かな鳴咽。
身体の奥底から込み上げ、しくしくと軋む心からの呻き声。喉が枯れるまで続けてようやく安堵の息を吐き出す。
そしてまた横島忠夫
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