十 道化師は哂う 後編
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で佇んでいた。
何をするわけでもなく何を考えるでもなく、ただただ地平線に沈む紅を見据える。
どこか遠くを見つめる彼の瞳がふと曇った。太陽の光が届かないその翳りの原因は、先ほど伝えられた言葉。
「ルシオラは、横島の子どもに転生する可能性がある」
僅かな希望を胸に神や悪魔に縋っても、可能性はひとつしか知り得なかった。しかしながら子どもに転生という手段は、ルシオラとの恋を断念させる決定打でもある。
周囲の者は口々に言う。
まだ引き摺っているのか 時も時、いい加減乗り越えろ 前を向け 一人の女性にいつまでも執着しないで もっと周りを見ろ もういいじゃないか 他にいい女がいるだろ 昔より今を見ろよ
…慰めの言葉だったんだろう、励ましの声だったんだろう。でも…―――
もはや、雑音にしか聞こえない。
世界か恋人かという命運を掛けた勝負で、横島は世界をとった。
その功績に傍観者達は立派な行いだと褒め称える。しかしながら横島はただ自分の言葉と向き合っただけだった。自分がルシオラに宣言したあの言葉の、責任をとっただけ。
「アシュタロスは、俺が倒す!!!!」という宣言通りに実行したのであって、未だにその選択が正しかったのか横島にはわからない。
ただ彼は世界を救ったのはルシオラだって、皆の心の片隅に置いてほしかった。
それなのに皆、まるでアシュタロス事件が無かったかのように振舞う。
大袈裟なほど横島に気を使い、ルシオラの名前すら口にしないのだ。
特に横島の周りの女性達など、アシュタロス事件の起る前と変わらずにいる。
それは彼女達なりの嫉妬心や焦りが生んだものだったが、横島には解らない。
逆に、誰もがルシオラが居た事実に目を逸らし、思い出話すらしない事が彼には辛かった。
演技をしている故に横島はよく周囲に拒絶され否定される。けれどルシオラを皆が忘れるという現実が、横島にはずっと辛かった。
世界を救ったのは彼女の存在があればこそ。今生きていられるのは彼女の犠牲があればこそ。
不協和を奏でる三界の均衡は、一人の女性の犠牲によって成り立っている。
ルシオラが護ってくれた世界。
横島は瞳を閉じ、夕陽を背にした。逆光を浴びながら、先を見据える。
皆が皆、あの事件の前の横島忠夫に戻ってほしいと帰ってほしいと願っている。
だから。
再び道化を被る。皆が安心するように、以前のピエロをまた演技した。
横島忠夫らしくする事が彼女への礼儀だと思い込んで。自分を好きになってくれたルシオラに格好悪いところは見せられないと、明るくおちゃらけた横島忠夫を演じ続ける。
幼少期からの演技に、もはや疑問すら浮かばない。
表面上、誰にも悟られず誰にも気づかれず、平
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