九 道化師は哂う 前編
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どれほど経っただろうか…―――。
両親が海外赴任したその頃であった。
上司の裏工作により父の勤務先が僻地の海外へ飛ばされたのだ。
そこがナルニアというジャングル奥地だと知った横島は、一緒に行きたくないと駄々をこね、一人暮らしを受理させる。
……本当は己を理解も気づいてもくれない両親と暮らすことが苦痛だった。だから舞台裏に引っ込み、本当の自分になれる時間が欲しかった…ただそれだけで横島は両親と離れ、一人東京に残ったのだった。
アパートで下宿中の横島は、バイト応募の紙を手に街中を練り歩く。学生の身で一人暮らしだと、必然的にバイトすることになる。更に両親からの仕送りは最低限で、彼はかなり切り詰められていた。
そして出会った。
亜麻色の髪を靡かせてバイト募集中の紙を貼る女性に、横島の心臓はドクリと音を立てる。
それは運命の兆候を知らせる音か因縁の残響か。それとも警報音か。
結局、彼は因縁に引きずられ、前世に流されてその女性に抱きつく。運命の分岐点は因縁によって定められてしまった。
その女性―――美神令子と出会った横島は、あれよあれよと彼女の下で働くことになる…自給250円という超薄給で。女好きが禍となり美神令子の色香に迷った横島は、彼女の助手を始める。
美神令子の職業はGS―――ゴーストスイーパー。いわゆる悪霊祓いである。そんな彼女の下働くようになった横島は、除霊に必要な道具を詰めた大荷物を運ぶなど雑用紛いのことをしていた。
単なるバイトだったはずの横島は美神と共にいる事で、行く先々でなぜか面倒事に捲き込まれるようになる。
そうして面倒事から逃げ延びるたび、一般人だった彼は何時の間にか霊能力者として目覚めていった。
陽の当らない泥中に埋もれていた種が芽を出し、花を咲かせ、実を実らす植物の生長を早送りで見る如く。
若干十七歳という若さで、たった一年で、横島忠夫は急速に成長していく。それは人間としてか男としてか霊能力者としてか。どちらにせよ彼は霊能力の芽を出してしまった……自身の意思に関係なく。
最初の霊能力は[サイキック・ソーサー]と横島が名付けた、霊気の盾。
横島一人だけで闘わざるを得ない状況にて、彼の隠された霊能力が覚醒した。
拳を掲げ、一点集中。
霊気で創った六角形の盾が、横島の拳前に出現する。強靭な防御力を誇るその盾は、出現する間拳以外が全くの無防備になってしまう…諸刃の剣。されど投擲し相手にぶつければかなりの威力を放つ、防御にも攻撃にも使える技。
実際霊力を少し操れるようになった。それだけで、色々変われると横島は思っていた。変われるのが自分自身なのか自身への周囲の認識なのかは考えないようにして、それでも何かが変われると、そう信じていた。
表裏一
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