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剣の丘に花は咲く 
第八章 望郷の小夜曲
第一話 ゆ、夢?
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混じりのものではなく。何処か縋るような必死な気配が満ちていた。

「ああ。もちろん楽しかったよ」

 それに気付いていた士郎だったが、何でもないような声色で、笑いながらイリヤの問いに応えた。

「そっか……楽しかった……か」

 士郎の答えを噛み締めるように口にしたイリヤは、風に揺れる髪を片手で抑えながら振り返り、優しく士郎に笑い掛けた。

「なら……ずっとここに居ようよ……シロウ」

 士郎を見つめるイリヤの顔をは、穏やかで優しく、包み込まれるような暖かさに満ちていた。柔らかに弧を描く細めた目には、慈しみと労わりが溢れ。かける声は、愛おしさに満ち満ちていた。
 何処からどう見ても小さな少女にしか見えないのに、纏う雰囲気は、まるで子を見守る母親のような雰囲気だった。
 誰もが頷きたくなる、そんな誘いを士郎は、

「それは出来ない」

 拒絶した。















「どうしてって……聞いてもいい?」

 拒絶の声をかけられても、イリヤは穏やかな顔のままであった。それは、笑っているが、今にも泣き出しそう雰囲気を纏う、士郎が目の前にいるからなのか。優しく士郎に再度問いかけるイリヤ。
 士郎はそんなイリヤの言葉を、目を閉じ受け止めると、顔を沈んでいく夕日に向け独白のように声を紡ぎ始めた。

「……俺がこうして幸せを感じてる間も、苦しんで助けを求める人がいるかと思うと……じっとしていられないんだ……」

 士郎の声は震えていた。
 イリヤは夕日を見つめ、ことらに顔を向けてこない士郎に近づくと、微かに震える手を握り締めた。

「全部シロウが背負う必要なんてないんだよ?」
「分かってる……だけどダメなんだ……だって俺は……俺は……」

 目を瞑れば、瞼に浮かぶのは闇ではなく惨劇の光景。

 爆撃で吹き飛んだ我が子の欠片を掴み狂ったように泣き叫ぶ母親の姿。

 笑いながら引き金を引く少年兵に撃たれ、悲鳴を上げ血を流し倒れる幼い子供の姿。

 何もかも焼き尽くされ村の真ん中で、ただ一人枯れた木のように立ち尽くす少年の姿。

 諦めと絶望に満ちた……目……目……め、目、眼、瞳…………。

 それを一度目にすれば……こうして幸せを感じること自体に……罪悪を覚えてしまう。

 どれだけ救っても、何人も助けても……終わりはない。

 身体が……心が磨り減っていくのを感じながらも、止まることが出来なかった。

 助ける度に、救う度に……。

 助けられなかった人が……救えなかった人が……いた。

 全てを救うことなど到底出来はしなかった。

 必ず零れ落ちるものがあった。

 それでも今度こそはと立ち上がり、進み……その繰り返し。

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