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シャンヴリルの黒猫
34話「スレイプニル (4)」
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「ありがたくいただいていきますね」

 るんるんとスキップをしながらギルドに向かうユーゼリア。お金を一旦おろしてくるらしい。
 アシュレイはというと、スレイプニルの背中に早速またがって、高くなった視界に感嘆の声を漏らしていた。おもわず脱力するクオリ。

「中々の景色だな。お前、飛べるのか? ……まだ無理か。ま、仕方ないか。そう落ち込むなよ」

「……魔獣と意思疎通ができるだなんて、規格外ですね。一体何者ですか?」

「なんだろうな。俺が聞きたいよ」

「ちょっ」

 はぐらかされたと思ったクオリが文句を言おうとアシュレイを見上げると、彼はスレイプニルの背にまたがったまま、遠くの空を見つめていた。その横顔に、ほんの僅か、“寂しさ”が宿っているような気がして、クオリは口をつぐむ。

「さてと。ユーゼリアがすぐに来るだろうから、馬車のところに行って待っていよう」

「あ、はい」

 ぶすっとしていた店長をスレイプニルが急かした。頭のその大きな鎌をちらつかせるだけで、情けない声を出しながら店頭にダッシュで戻っていく。思わず吹き出した。

「アッシュさん!」

「ん?」

「わたし、暫くお世話になりますね!」

「おう。よろしく、クオリ」

「はい!」

 なんだかこの2人といると、自分を偽らずにのびのびできると、クオリは思った。




******




 一晩馬車倉庫と馬小屋を借りることになった宿屋にその旨を伝えると、スレイプニルについて随分驚かれた。

「あ、あれが馬車馬かい!? 襲ったりしないんだろうね!」

「問題ない。何もしなければ、な」

「ちょっとアッシュ! 怖いこと言わないの!」

 にやりと笑いながら言うと、慌てたようにユーゼリアがフォローを入れた。アシュレイは腹をバシバシと遠慮なく叩かれ、ちょっと痛がっていた。

「じゃ、行きましょうか。次の目的地はファイザル! 武闘大会へ! 急げば2日目からの試合には間に合うわ。お金稼ぐわよ!」

「それから、新しい仲間に、乾杯」

「よ、よろしくお願いしますっ」

 その晩、クオリは初めて翌日が楽しみで眠りに就けない、という現象に出会った。

(何もかもが、この2人といると新鮮ですね……)

 楽しい旅になりそうだ。ファイザルでは一体何が起きるだろう。

(きっと、アッシュさんがまたすごいことをやらかすんでしょうね)

 想像は尽きなかった。


 暁の空に、雲は1つも見えない。


******




 宿の天井には降り立った一羽の黒いカラスが、赤い目を朝日に照らされていた。







               ―――
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