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ソードアート・オンライン 舞えない黒蝶のバレリーナ (現在修正中)
第一部 ―愚者よ、後ろを振り返ってはならない
第1章
第2話 歓喜する魂
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、自身の価値も見出せなかった。
 ……けれど、この世界に行けたらどうなのだろう。
 モンスターを狩って生活し、家を持ち、釣りをし、畑を耕す――――。そんな日々を過ごすことが出来る。
 ある程度のルールはあるが、それはこちらだって行動を制限するものはいくらでもある。それを考えれば、この世界は遥かに自由なのだ。
 ならば、自分の価値を自分で作り上げることが出来るのではないか。
 自分の脚で歩いて、走って、跳ねることが出来るだから。何物にも、私は縛られないのだから。
 ――――もし、この世界を“もう一つの現実世界”に出来るなら。
 時間だけが浪費するように進むなかで、置いて行かれた私が先へ進めるなら。
 私は、もう一度生きることが出来る。この世界で死んだのなら、そちらの世界の住人になればいい。それで私が生きることが出来るのなら、……たとえニセモノだらけの世界だとしても構わない。
 ただ、これの意味することはすなわち、今の世界で“生きる”ことをやめるということなのだ。しかしすでに私自身が、今生かされている世界を拒絶している。
 もちろん、スグや幸歌、伸一の顔が浮かばなかったわけではない。だが、迷うことはなかった。
 たとえ“もう一つの現実世界”から“己の生きる世界”と認識が変わり、破滅への一途をたどったとしても、後悔はしないだろう。
 そもそも、すでに私は毒針の道を進んでいるのだ。多種多彩な花が咲き、光り輝いている道はもう踏み外しているのだ。
 今以上の暗闇に突き進んだとして、何が変わるのだろうか?
 
 ≪ソードアート・オンライン≫の予約は無事に済んでいる。あとは数日後に届くのを待つだけであった。
 心躍る、なんていうことは特にない。ただその日を待つだけだ。
 小ぶりのバックを膝の上へ乗せ、車椅子の車輪の外側に付いたハンドリムを操作する。私の部屋は1階へ移動させてもらったので、部屋の外に出れば玄関は目と鼻の先だ。
 ――――なんだけれども。
 私の動きは、自然と止まった。

「……あ、紅葉」
 玄関の方向から歩いてきた人物もこちらに気づき、私の名前を呼んで足を止めた。
 ……そう、玄関に近いということは、それだけ“彼”と鉢合わせをする確率が上がるし、引き返すことも出来ない。
 私はろこつに嫌な顔をして、わざと見せつける。
「2人の時にその呼び方はやめてって言っているでしょう?」
 何か言葉が返ってくる前に、ドスを利かせて刺々しく言ってやった。

「――――和人さん」



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「……ごめん、紅葉さん」
 もともと逸らされていた視線が、さらに落ち込む。私は口に馬鹿にするような笑みを作り上げると、ハンドリムを操作して和人の方へ近づく。彼の肩が、少しだけ揺れた。

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