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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十七話 庭園は最後の刹那まで(下)
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いたいけな子供なら腰を抜かして当たり前だ」
と唸りながら千早の母相手に腰を抜かして豊長に泣きついたかつても子供は不貞腐れた様に甘納豆を口に放り込んだ。
「一応、怪我がないように監督しとけよ――と言おうと思ったが。お前の副官は案外融通が利くな。それに度胸も下手な兵よりもある」
 さり気なく何時でも動ける位置に天霧中尉が移動している事を豊久は将校の視線で示している。
「ま、お前さんの大隊に口出しはしないよ。人の推薦くらいはするけどな」
「目付か?」
「ちゃんと使える目付だよ」
と開き直りも甚だしい台詞を残して天霧中尉の方へ歩いていった。


同日 午後第一刻 駒城家上屋敷庭園
〈皇国〉陸軍中佐 馬堂豊久


「意外だな、天霧個人副官。個人副官がつく程になれば基本的に鉄火場に立たない程度には立場がついているものだと思っていたが度胸も心得も私の様なぼんぼん将校よりもずっとあるようだ」
 敬礼を交わしながらかつての情報将校は観察する。
 ――白いほっそりとした手には真剣を扱った者特有の傷がついている。ただのお遊びではない、実戦に対する備えとして修めたものなのだろう――怖いな。

「はい、中佐殿。私達の任務は護衛も兼ねていますので、荒事に対する教育も受けています」
 ――見かけは細いのだが、両性具有者はそうした体質なのだろうか?
「剣虎兵大隊は伊藤大佐殿の下で劇的な戦果を上げた。故に戦場では誰もが鋭剣を振るう事になる。そう扱われる。天霧個人副官、御育預殿を宜しくお願いする。私も御育児預殿とは互いに戎衣に腕を通す前からの付き合いでね」
「――殿下は御育預殿を御気に掛けていらっしゃるようだ、随分と先行投資をしていらっしゃる」

「私が拝領した任務はどんな状況であろうと新城少佐の望まれる存在として傍らにある事です、ただそれだけです」

 ――おぉ、釣れた、釣れた。丁重ではあるが温かみのない声だ、怒ってはいるようだな、俺の言葉に反発しているのなら良いことだ。若さと種族的な教育から任務を神聖視しているのか?
 内心ほくそ笑みながら豊久は言葉を続ける。
「そうか、それは御育預殿にとって良いことだ。これからは戦の準備も戦もその後始末も容易いものではなくなる。よくお助けしていただきたい」
 ――さて、何時までも此処に居るわけにもいかないな、父上に叱られる。

「あぁ、それじゃぁ、ちょっと他の方々のところも行って参りますので――」
 皆が集まっている場所に戻り、そう言って静まりかえった周囲を視線で示した。
茜は個人副官をちらり、と視線を送るとそっと豊久の隣に戻った。
笹嶋や新城と二三言葉を交わして卓から離れると、茜は豊久に眉を顰めながら話しかける。
「――随分とあの副官さんを苛めたようですね」

「政への備え――と言
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