八 狐疑
[3/4]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
と胡坐を掻き、右手を掲げた。目を閉じてなにやら集中する彼を、子どもは訝しげに目を向ける。
緩やかにしかし確実に変化していく彼の掌に、興味が灌がれて覗き込み、子どもは目を見開いた。
横島の右手からほんのりと霊気が漂い、集束されていく。徐々に玉の形と化した二つの小さいモノが、拳からコロンと零れ落ちた。
「これ…は、まさか…文珠、か」
「知ってんのか?」
「ああ。神器―神々にしか扱えないはずの道具だ。文字一文字で表せるキーワードと共に開放することで、万能に近い能力を発揮………。神話でしか知りえなかったが、まさか本当にあるとは…」
驚愕する子どもの目前で、横島は文珠を拾い上げ、まじまじとソレを見た。
「そんな凄いもんかな〜…俺にとっちゃ、お前のほうが色々凄いと思うけど」
「………今の行動からその珠はお前が創りだしたように見えるが、……………………お前、一体何者だ?」
スッと子どもの目が細められる。
目の前でお気楽そうに見えるこの青年が文珠の創り主であったことに驚いたが、同時に侮れない人物と認識した。子どもの心に、久方ぶりに緊張が奔る。
横島というこの人間が敵ではないと思いたい。けれどもし、火影に敵対する人物であれば、横島を子どもは何の躊躇も無く葬り去るだろう…相討ち覚悟で。
表情には出さない。けれど子どもの双眸は抜き身の刃のような鋭い光を宿しており、横島を見極めようとしていた。
それを知ってか知らずか、珠を弄ぶように拳の中で転がしながら横島はなにやら考え込んでいる。
直後に白い光が彼の右手に雲集し、蛍火が瞬くようにポッと二つの文珠が輝いた。
「コレで俺の記憶を見てもらうことが、さっきの答えになると思う」
「……その文珠が安全である保障は?」
差し出された二つの光輝く珠を手に取らず、子どもは試すような心持ちで問い掛ける。
「……害になるとすれば俺のほうだと思うぜ。過去を全て曝け出すなんて恥ずかしい思いすんのは俺で、お前は情報収集とさっきの答えを得る……どうだ?」
逆に試すように煽られ、興味を覚える。知識に貪欲な子どもは、実際文珠に興味津々であった。
(……どうせ久方ぶりの休みでやることもないしな……試してみるのも悪くない、が)
逡巡する子どもの心を読むように、横島は立ち上がる。
「さ〜て………ちょっくらナンパでもしてくっかな。この里、けっこう美人多いし〜」
文珠を床に置きっぱなしにして、鼻歌まじりに横島は部屋を出て行った。
その後ろ姿を見送り、バタンと開閉音が耳に届いた途端子どもは床へと手を伸ばす。躊躇しながらそっと掴んだ二つの珠は創造主がいないにも拘らず淡い光を放っていた。
それぞれの珠に一つずつ、文字が記されている。
【記】【憶】
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ