七 念い(おもい)
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間を保障する義務を持つはずの美神令子は、彼に霊能としての知識を何一つ教えなかった。
横島はそのまま流されるままに、こういった基礎の基礎を知らず闘ってきたのである。
「くそ、なんでだよ…なんで」
煩悩に頼らずに霊能力を上昇しようとすることは、基盤となる集中力の元がない。この里に来てからも横島は煩悩にて霊力を上げ、それに応じて文珠を生成していた。
しかし、こんな状況で横島も色欲に走るほど馬鹿ではない。今の横島は、ただ子どもを助けたかった。
悲惨な人生を送ってきた幼い彼に、そして道化という仮面を頑なに被る彼に、どこか親近感が湧いたのかもしれない。
「………………頼むッ」
ようやく手からほんのりと霊気が漂い、集束されていった。徐々に玉の形と化すその小さいモノに、横島は希望を託しながらも急かす。
(早く早く早く………ッ)
黄昏時の太陽のような子どもの金の髪が、彼の物哀しい過去を煽る。ふっ、と一度たりとも忘れたことのない蛍の儚い光が、横島の瞳の奥で一瞬瞬いた。
―――――――昼と夜の一瞬の隙間……短時間しか見られないから余計に美しい――――――
(……俺はもう失いたくない…ただ、)
――――守りたいだけなんだ…
そう一心に願った横島の拳から、眩いばかりの霊力が漏れ出した。湧き水のように力が溢れ、霊能力の集束力が急速する。
………―――――――〈煩悩〉から〈守護〉へ、霊能力の集中力たる基盤が移った瞬間であった。
熱は引いた。横島が必死で生成した文珠の効果である。
二度目になると上手く子どもの体に馴染んだらしく、文珠の力は元からの治癒能力に符節を合わせきちんと順応した。
それでもすぐに快癒することはない。そもそも今回の高熱は文珠が原因であるので、昨日使った文珠の影響が体に未だ残っているのだ。
関連し合う二つの力の間に生じるずれが、全癒までの時を必要とする。
その間に横島が出来ることと言えば、子どもの体を労り介抱…もとい看病。
生まれてこのかた、看病なんてしたことが無かった。横島自身体は丈夫なほうだし、一人暮らしだったから病気になっても寝るか文珠で治していた。
だって、病院に行くお金すらない。
(………………いかに文珠に頼っていたかわかるな……)
はかどらない看病。自分の手際の悪さに横島は苦笑する。それでも彼は子どもの傍から離れなかった。
濡れタオルを片手に、汗で額にへばり付く子どもの前髪へ手を伸ばす。
その時、いっそ空を切りとって閉じ込めたような蒼い瞳と、ぱちり目が合った。
「…えっ、と…だ、大丈夫か?」
行き場のない手は虚空で犬掻きした後結局引っ込め、子どもに気
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