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同士との邂逅
六 孤影
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はもっと早くこの場に来なかったかと、横島は無性に腹が立った。
(【癒】か【治】…ッ)
焦燥感ばかりが募り、ストックしていた文珠を出そうとする。そんな彼の腕を、小さな手が押し返した。
「へ…平気……すぐ、治る…ほっと、いて……」
殴られたと一目瞭然の腫れぼった瞼。潰れた喉からは掠れた声。
見えない相手に、途切れ途切れだが言葉を紡いだ子どもの、明確な拒絶に息が詰まる。


(………――――ああ、コイツは、)


唐突に理解した。
周りは全て敵。
如何なる時にも隙を作らず。己の領域への干渉を許さず。
頑なに拒絶を繰り返し、孤独に慣れ過ぎてしまったような。
ただ、壊し方しか知らない脆い硝子玉。


目を細め、横島は憤る。何の苛立ちなのか、どこへ、誰に対しての怒りなのか。
行き場を失った腕は矛盾した腹立ちを抱きながら、子どもの身体を背負い上げようとする。一時の盲目な子どもは、その不可解な動きに抵抗を見せた。

「なに……ッ!!??」
「帰ろう」


ピタリ、と。子どもの動きが止まった。
「お前……」
見えざる相手が同居人だと気づいた子どもに、横島は手を差し伸べる。
思わず手を伸ばそうとし、はっとして子どもは慌てて手を引っ込めた。触るな汚い、と幾度も言われた光景が子どもの脳裏に浮かぶ。
そんな躊躇する子どもの手を、横島は硝子玉を扱う如くやんわりと握った。

「いつまでもこんな原っぱで寝転がっててもしゃーないだろ?手当は、アパートですっから…だから」




一緒に、帰ろう?……―――――――――









朱と橙にいつしか群青色が混ざり、紅の空は何時の間にか蒼へと塗り替えられていた。


静謐な夜の海を、横島は走る。背中へ振動が行き渡らないように気を使いながらも、彼の足は速まっていく。

怪我に響かないようジャンバーを被せ、そのまま子どもを背負い上げた横島はアパートへの帰路を急いでいた。
背負い上げた際、子どもは最初抵抗したが、今はおとなしく背負われている。どちらかと言うと硬直状態に近いが、それでも横島は胸を撫で下ろした。
最終的には強行手段として文珠を使うつもりだったので、使わずに済んでほっとしたのだ。

背中越しに感じる重みは、普通の子どもより遙かに軽い。
あまりの軽さに本当に子どもを背負っているのか、横島は何度も振りむいて確かめた。



ようやく着いたアパートへ転がり込むと、いつも自分が寝ているベッドに子どもを横たわらせる。
何時の間にか寝息を立てていた子どもの寝顔は、普通の子どもと変わらない。しかしながら、あどけない寝顔に反して赤黒く腫れた皮膚が普通とは違う事を証明している。
ストックしていた文珠を出そうとして、ふと横島は気づいた
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