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東方調酒録
第九夜 八意永琳は実験する
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て座った。
「行ってきますね」
悠は永遠亭の整理された庭を通り抜け、扉の前に立ってノックをした。「はい、はーい」という声がして、桃色のワンピースを着たふわふわなウサミミが生えている黒髪の少女が顔を出した。
「てゐさん、 こんにちは。 永琳さんいますか?」
「悠! よく来たな。 人参くれ」
因幡てゐが赤い目をキラキラさせながら、両手を差し出してきた。
「ごめんね〜、 今日は持ってないんだ」
「じゃあ、 帰れ!」
てゐが勢いよくドアを閉めた。ドアを閉めた衝撃風が悠の顔に触れた。しばらく茫然としていた悠は再び扉を叩いた。
「開けてくれよ〜、 今日は受診に来たんだ」
扉が今度は勢いよく開いた。
「どうした? 病気か?」
てゐが心配そうに悠を中に入れた。
「妖怪に少しかじられて…… 大した傷じゃないけど一応念のためにね」
「災難だったねぇ、 しあわせ少しあげるね」
「ありがとう。 今度また人参あげるよ」
「分ってるじゃん」
てゐがうりうりーと悠にすり寄った。
「あ、悠はここで待ってて、 私はお師匠様呼んで来るから」
悠はてゐの勧めた椅子に座った。しばらくするとてゐが団子とお茶を持って横に座った。
「少ししたら来るって…… これでも食べて待っててよ」
悠はてゐの差し出した団子とお茶を受け取った。美味しそうな団子である。悠は長男を一口で食べた。想像していたのとは逆方向の味がした。悠は慌ててお茶を手に取り勢いよく喉に流し込んだ。鼻を吹き抜ける爽やかさであった。風が強すぎて痛いぐらいであった。
「わさび……」
悠が鼻を押さえている。団子にはからし、お茶にはわさびが入っていたのである。たっぷりと……。
「てーーゐーー」
てゐがピョンっと跳ね、笑いながら逃げて行った。残された悠は口をスハー、スハーするほかなかった。
 
 悠の口の痛みがたいぶ引いた頃に永琳が歩いてきた。長い銀髪を一つに三つ編みにしている幻想郷には珍しい大人の色気を持つ女性である。「おまたせ」と言って悠を診療室に入れた。
「てゐが嬉しそうにしてたけど、 何か悪戯されたの?」
「からしの入った団子を食べさせられました」
悠が二男と三男が残っている団子を見せた。永琳がふふっと笑った。
「あの子気に入った人には遠慮ないから」
「ということは僕は嫌われていないんですね」
「あら〜? 怒ってないの」
「悪意のない悪戯ですから……」
悠はことなさげに言った。
「あなたマゾ?」
「いえ、 ノーマルですよ」
「重症ね……」
永琳が呆れた。自覚症状がないほど重症である病気もある。
――傷は思ったとおり大したことはなかった。永琳は薬棚から薬を一つ取り出した。
「この薬を使えば傷が一瞬で治るわ」
「副作用……は?」
「楽しみね」
永琳が美しく笑った。
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