第一部
第二章 〜幽州戦記〜
二十三 〜二人の勇士〜
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り申す。……が、その前に、太史慈殿からも承りますぞ?」
「忝い。貴殿の軍は今まで、苛烈さの中にも慈悲を以て、賊軍と戦ってきた……そう愚見しています」
太史慈は、ゆっくりと噛み締めるように話す。
「だが、此度は降伏を求める者もいたにも関わらず、誰一人としてそれを認めず、皆殺しにされたとか。相手が賊とは申せ、度が過ぎるのではありませんか?」
同感なのか、張コウが頻りに頷いている。
「ご両者のお尋ね、ご尤も。では、お答え申し上げる」
「…………」
「…………」
張コウも太史慈も、黙って私の言葉を待っている。
「まず、昨夜の賊でござるが、どのような賊徒であったか、ご存じか?」
「さて、賊は賊であろう?」
「少なくとも、黄巾党とは聞いていませんな」
「奴らは、冀州に散らばる賊徒でも、最も冷酷な者共でござった。男は皆殺し、女と見れば犯し、子は人買いに売る。家や田畑は焼き尽くし、井戸には毒を投げ込み、襲われた村は文字通り焦土と化した……。そんな奴らにござる」
「なんと……」
「し、しかし。そのような賊は他にも数多おりましょう?」
私の言葉に衝撃を受けたのか、二人は驚愕を隠せぬようだ。
「然様。ですが、他の賊徒は、まだ人の心を宿した者が少なくないようでござってな」
「…………」
「それに、斯様に凶悪な獣が、仮に広宗に合流すれば。広宗の民の苦しみは増し、我らは獣相手に無用な損害を被る恐れがござろう?」
「それは……」
「……否定できませんな」
俯く二人。
「そのような輩をのさばらせたままなど、民を救う事を旗印にする我が軍には看過できぬ事にござる」
「だ、だが。それならば広宗の者共を討ち果たしてからでも」
「いえ、それでは駄目でござる」
「何故だ!」
張コウが、激高して詰め寄ってくる。
「落ち着け、彩」
「し、しかしな。お前は何とも思わんのか、飛燕!」
ほう、互いを真名で呼ぶとは。
この二人、それだけの間柄と見える。
「何をしている!」
と、愛紗がそこに飛び込んできた。
「何だ貴様は!」
張コウの一喝に、動じるような愛紗ではない。
「貴公こそ、無礼であろう? 使者として参ったのなら、礼を守られよ」
「彩。この御仁の言う通りだ。まだ、土方様の話は終わっていないぞ?」
「……うむ。ご無礼、お許し願いたい」
すぐに非を認める度量は、持っているか。
なるほど、この者は正真正銘、張コウその人であろう。
「愛紗。心配は要らぬ、下がっておれ」
「し、しかし……」
「ぐー」
そこに、場違いな寝息が混じる。
意図しているのかどうかは知らぬが、お陰で愛紗が落ち着きを取り戻したようだ。
「愛紗、風も疲れているようだ。休ませてやれ」
「……は。風、参るぞ」
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