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剣の丘に花は咲く 
第八章 望郷の小夜曲
プロローグ 新たな夢
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れるはずです」

 意識を取り戻した王の姿に、気が緩んだのか、ベディヴィエールはほんの少し口の端を緩めた顔で、何気なく言葉を掛けた。 

「夢の続き……続きを見られるのか? 同じ夢の……その続きを見ることが……」
「ッ! ぁ……っ……はい……っ……私にも経験があります。強く願えば……必ずや……」

 何気なく掛けた言葉に、一瞬目を丸くして驚いた様子を見せたアーサー王は、次に不思議そうな顔で表情を固めたベディヴィエールを見上げた。その何も知らない、童女のような声と仕草を目にしたベディヴィエールは、目の前で力なく横たわる、自分の主の本当の姿(・・・・)を見たような気がし、苦しげに顔を歪ませた。

「そうか……そなたは博識だな」

 アーサー王は、そんなベディヴィエールの様子に気付いていないのか、ふわりとした優しい顔で笑った。
 それは、円卓の騎士として、アーサー王に長い間仕えてきたベディヴィエールにしても、初めて見る王の柔らかな笑顔だった。

 理想の王。

 気高き騎士の王。

 そんな呼び名が全く似合わない。

 それは優しく柔らかく……降り注ぐ木漏れ日のように無垢な笑みだった。

  



 ベディヴィエールは、目の前の光景に声を失い呆然としていた。
 目の前には、自分の人生と言っても過言ではない王の姿がある。
 だがしかし……。
 自分の知る気高く強く、孤高にして至高の王の姿と、今目の前に大樹に寄り添うように腰掛ける王の姿が一致しない。その姿は間違いなく自分の知る王でありながら、口にする言葉の一つ一つが、浮かべる表情の一つが一つが……余りにも自分の知る王の姿と重ならなかった。
 もし誰かが、今自分の前にいるのは、王ではなく、王に似ただけの、何も知らないただの少女だと言われれば、疑い無く頷けてしまっただろう。そう考えてしまうほど、目の前にいる王は自分の知る王とは違いすぎた。
 そんな風に、混乱し、呆然と王を見下ろすベディヴィエールの意識を取り戻したのは、原因である王の声であった。

「ベディヴィエール。我が剣を持て」
「―――ッ! っは、ハッ!!」

 それは鋭く威厳に満ち……正しくベディヴィエールの知る王の声であった。
 凛々しく顔を締め、固き意志を鋭き眼光に乗せ光らせる王は、ベディヴィエールが馬の鞍から自身の剣を手に取るのを確認すると、命令を下した。

「よいか。この森を抜け、あの血塗られた丘を越えるのだ。そして……その先にある深い湖に、我が剣を投げ入れよ」
「王よっ、しかしそれ――」
「行くのだベディヴィエール」
「……っ……く……」

 王の命令の意味を理解し、反射的に顔を上げたベディヴィエールだったが、拒否は許さぬと睨み付けるアーサー王の眼光に、続く筈だっ
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