第二十七話 少年期I
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こくり、と肯定するようにうなずいていた。それに「エイカはおっちょこちょいだなぁ」とまた笑っている。
アホすぎるだろ、こいつ。そんな考えが頭をよぎる。普段の俺なら鼻で笑っていた。おめでたい頭だと馬鹿にして、それだけだったはずだろう。なのに、今の俺は何故かそんな風に考えることができなかった。それどころか、こいつの笑顔を見て落ち着いていく自分に戸惑っていた。
「あ、そうだ。それだとエイカは、たい焼きを買うお金って持っているの?」
「ほかには持っていない」
金銭をもっていても走るときの邪魔にしかならないし、逆に奪われる危険性がある。そのためこういう時はいつも身軽さを心がけていた。何かを買うつもりもなかったので、たい焼きを買うお金なんて一銭もなかった。
「仕方がないなー。じゃあ俺がおごってやるよ。ちょうど2人分のお金はあるし」
「はぁ? なんでそこまでするんだよ」
少なくとも俺なら奢らない。俺には金を他人のために使う考え方がわからない。だからこいつの提案に本気で疑問をもつ。そんな俺の様子に簡単なことだよ、とゆっくりと目を細めた。
「友達記念に、かな」
「……友達?」
「そ。俺さ、ずっと田舎暮らしで同い年ぐらいの子どもが身近にいなかったんだ。だからこんな風に家族以外で遠慮なくおしゃべりしたのも、思いっきり遊んだのも初めてでさ。すごく新鮮だった」
たぶんこいつなりに真剣に告白しているのだろうけど、俺としてはあの遠慮のなさは野生児だったからなのか、とものすごく納得してしまっていた。
「一緒に遊んですごく楽しかった。また遊べたらな、って俺は思えた。だから…そのえっと、……エイカと友達になりたい、かなって」
後半部分の言葉は俺から顔を背け、歯切れも悪かったが確かに俺の耳に届いた。話の内容にも驚くポイントはあった。だが俺としては、こいつにも羞恥心なんてものがあったのか……とそっちの方がインパクトが強かった。なんか真面目なこいつがおかしい、と思ってしまう俺は末期なんだろうか。
「そんな程度で、友達かよ」
「そんな感じじゃね、友達って。楽しいことや嬉しいことに一緒に笑い合ったり、もし辛いことや悲しいことがあっても一緒に笑い飛ばすことができたりとかさ」
「笑ってばっかりじゃねぇか」
つい悪態をついてしまったが、正直なんて返事をすればいいのかわからなかった。他人と関係を持ったこともなく、ましてや友達になる。ただ言葉だけ知っていて、これから先俺が持つことなんてできないと思っていたもの。持つことはないと諦めてしまっていたもの。
それが手の届く距離にある。こんなにも近くに――ある。
「そんなこと言うやつには奢らんぞ。目の前でものすごくおいしそうにたい焼きを食う、俺の姿を見ながら悔し涙
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