第二十七話 少年期I
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ると微かにだがおいしそうな匂いが漂ってきた。それに腹から小さな音が鳴った。
ベンチから立ち上がり、たい焼き屋に辿り着くと早速メニュー表を眺める。こいつの言う通り安い値段で買えるし、餡子の量も申し分ない。これでおいしいのなら、お気に入り店として頭の中に登録しておこう。
「俺はこしあんかな。エイカはどれにする」
そう言ってポケットから数枚の硬貨を取り出し、店の人に手渡していた。俺は粒あんだろうか、そんな風に考えながら俺も金を取り出すためにコートの内ポケットから財布を取り出した。黒く、子どもが持つには不相応な大きさの財布を。
俺がその手を止めたのは、視線を感じたからだった。それも強く真っ直ぐなもの。誰のものなのかはすぐにわかった。だけどその向けられている先が俺ではなく、俺の手元だと理解する。そこでようやく俺は気づく。自分が何を…誰の目の前で取り出してしまったのかを。
「その財布、どうしたの」
「――ッ」
急激に頭が冷える。先ほどまでのどこか浮ついていた気持ちから唐突に目覚めた意識。自分の手元に注がれる目。手に持つ財布を握る指に、ぐっと力が入った。
「お金、いっぱい入ってるね」
「こ、これは……」
これは……、なんて言うつもりだよ。俺は開きかけた口を閉じ、沈黙する。こんな黒皮の財布を子どもが持っているわけがない。中身も札束が何枚か入っており、財布のポケットの中にはカードが詰められている。
どう考えても俺の財布だなんて思わない。ならどうしてそんなものが俺の手元にあるのか。その答えを導き出すのは簡単だ。俺がこの財布を手に入れた方法をすぐに思いつくはずだろう。
ぐるぐる回る思考に気持ち悪さを感じる。隣のあいつの顔を見ることができない。こんなの、いつも通りのはずだろう。この行為をしたのは初めてじゃない。自分で決めてやってきたことだ。周りから汚いものを見るような目にだって慣れているだろう。
「エイカ」
なのに、なんで見れない。こいつは今どんな目を俺に向けている。今日1日中ずっと一緒にいた。ずっと笑顔でこいつは笑っていた。俺に笑いかけていた。だけど、今はきっと……笑顔じゃない。そしてこれからはもう二度と――
「それ、拾ったの?」
「…………は?」
「え、だってそれエイカのじゃないと思って。だから拾ったのかなって思ったんだけど」
嘘だろ。さっきまでうつむいていた顔を勢いよくあげて、見れなかったはずの顔をガン見してしまっていた。その顔には嫌悪のようなものは一切なく、それどころか何故か安心したような、どこか嬉しそうな笑みを浮かべていた。
まったく真逆の顔を想像していた俺は、茫然とそいつの顔を見つめるしかなかった。それからこいつの言葉が徐々に頭に染み込んでいき、
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