第七章 銀の降臨祭
第四話 貫かれる剣
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うに両腕を開き、黒鍵が投擲される。
それは狙い違わず、護衛の騎士に迫る。そして、音速を越え飛ぶ合計六本の黒鍵は、その衝撃波だけで護衛の騎士全てを、まるで風に舞う木の葉のように吹き飛ばした。
これで士郎とホーキンスを阻む者はいなくなった。ホーキンスとの距離は約三十メートル。今の士郎にとって、それを制覇するのに三秒もいらない。
突き立てたデルフリンガーを引き抜く。
ホーキンスが士郎に杖を向け詠唱を始めた。
士郎が地を蹴りホーキンスに迫る。
迫る死を目前に、ホーキンスは生涯最高の集中力を見せた。目にも止まらない筈の士郎の姿を、ホーキンスの目は捕えていた。
だが、口が重い。
腕が上がらない。
迫り来る士郎を前に、ただ、その姿を見ていることしか出来ないでいた。
死を前に、しかし、ホーキンスの心を染め上げるのは恐怖ではなかった。
それは憧憬。
何故ならば、目前に迫るそれは、ホーキンスにとってもはや死の象徴等ではなく。
歴史の彼方に消えた筈のもの。
夢であり憧れである。
『英雄』。
それであるが故に。
単騎をもって、万の軍勢を打ち倒す。
過去のどんな英雄、勇者であれ成し遂げられぬ程の偉業。
それを成し遂げた男が目の前にいる。
眩しいものを見るかのように、ホーキンスの目が細まる。
『英雄』が両手で握る長剣を振りかぶる。
その左手に眩いほど輝くルーンが見える。
鎧はところどころ欠け落ち。
身に纏う赤い外套は、己が流す血で更に紅く染まり。
白髪と浅黒い肌を血と泥が斑に汚している。
肉体を、精神を、限界を越えて酷使されているだろうに、こちらを射抜くように向けられる目に陰りは一切見えない。
刀身の周りの空間を歪ませながら、血で濡れる長剣が迫る。
痛みより。
熱さより。
冷たさを先に感じながら、ホーキンスは剣を振り下ろした『英雄』の姿を追う。
右腕に感じる喪失感を無視し、暗闇に堕ちる意識を必死に振り払いながら、万の軍勢を打ち破った英雄の姿を追う。
意識が消える間際。
ホーキンスの胸に去来した思いは、この『英雄』と共に戦場を駆けてみたかったという未練だった。
デルフリンガーは、一言も声を上げることも出来ず。ただ、目の前の光景を目のない身体で見ていた。 七万の大軍。
それが、まるで蜘蛛の子が散るように逃げ出している。剣を杖を銃を放り捨て、我武者羅になって逃げている。
最初に逃げ出したのは、アルビオン軍の一番端を構成する部隊だった。彼らは士郎と直接相対はしていない。ただ、士郎が作り出す悲鳴と破壊音を遠くに聞いていただけであった。しかし、だからこそ、その
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