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ソードアート・オンライン 舞えない黒蝶のバレリーナ (現在修正中)
第一部 ―愚者よ、後ろを振り返ってはならない
第1章
第1話 黒猫
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い。
 ふっと口元が緩んだのが、自分でもわかった。慌てて気持ちを入れ直し、引き締める。
 ――――と、いつのまにか居間の前まで来ていた。考えながら歩いてきたため、周りのことを確認するのがおろそかになっていたのかもれない。
 内心ヒヤヒヤとしながらも、ドアの取っ手に手をのばし――――そこで、わずかに隙間があることに気が付いた。何となく、そうっと押し広げ、室内を覗き込む。
「え……、兄さん?」
 どうしたんだろう。兄さんがソファに座る両親の後ろに立っている。その表情は見たことがないくらいに硬く、唇はきつく引き結ばれていた。両親は背後に立つ兄さんに気付いている様子は無い。
 そのただならぬ雰囲気に、私は自然と、半歩下がった。心臓がぎゅっと鷲掴みされたみたいに息苦しくなる。

 ――――ここに、居てはいけない。この先の光景を、見てはいけない。

 頭のなかで、私がそう叫んでいる。
 警笛を鳴らしている。
 今すぐ踵をかえして、とにかくここを離れたい。
 ……そう思っているのに――――これ以上足が動かない。まるで足が、強力な接着剤によって床へくっつけられてしまったかのように。
 さっきと同じだ。大きな孤立感を感じて足が張り付いてしまった時と。……けれど決定的に違うのは、その時よりも深くて重い。
 ……底なしの沼に足を突っ込んでしまったみたいだ。逸る気持ちが、思考を揺さぶる。
 早く、早く! ここから離れなきゃ!
 そう思っているのに、足は床とピッタリと張り付いている。目は縫い止められているかのように両親と兄さんの姿から外すことが出来ない。手と声は封じられ、耳は今にも兄さんの呼吸音が聞こえてしまいそうなほど敏感になっている。
 ……体のすべての神経が、目の前の異質な空間に完全に飲み込まれてしまっていた。
 ズブズブと体が沼へ沈んでいき、足も腕も絡め捕られて抜け出すことなど叶わない。
 ――――だから、聞いてしまった。
 兄さんがそれを口にした瞬間を、頭に焼き付けてしまった。


「オレの、本当の両親のことを教えてほしい」


「……え?」
 吐息のように掠れた音が、自分の口から漏れ出る。
 ――――本当の、両親。
 私はその意味を、すぐに理解してしまった。
 呼吸が浅く速くなっていく。息がしにくい。手で首を圧迫されて、気道が塞がれているみたいだ。キーンという音が耳元で響く。さぁーと、身震いする冷気が全身を一気に撫でていった。
 けれどそれに反して、自分の心臓の音が聞こえそうなほど高鳴り、体温がどんどん上がっていく。

 ――――いや。やめて。それ以上、言わないで。

 けれど、音になっていない声なんて届くわけがなく。
 次々と、耳を塞いでしまいたくなるような真実が兄さんに――――、否、兄さんと私
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