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ソードアート・オンライン 舞えない黒蝶のバレリーナ (現在修正中)
第一部 ―愚者よ、後ろを振り返ってはならない
第1章
第1話 黒猫
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った。この切り替えの早さが彼女の良い所だ、と男は苦笑いを浮かべる。しかし彼女は男の下らない心情に気付く様子は無く、代わりに身に纏う雰囲気を一層優しいものに変えると、まるで自分のことのように穏やかな声音で、
「さっき翠の旦那さんからメールが来たのだけれど、無事赤ちゃんが生まれたんですって。双子の可愛い女の子だそうよ」
「良かったじゃないか! ずいぶん心配していたからな」
「ええ! 本当によかったわ。……名前ももう決まっているらしくて、上の子が直葉ちゃん、下が
紅葉
(
もみじ
)
ちゃんですって」
彼女は徐に鞄を探り、携帯電話の画面を開いて寄越してきた。数センチ程の長方形のそこには、2人の赤ん坊の姿が映しだされている。画面の光のせいなのか、それともその神秘的な雰囲気のせいなのか、妙に目が痛い。
「それでね、その子たちを見ていたら、……和人も来月で1歳なんだなーって思って」
ふわりと口元に笑みを浮かべながら、彼女はチャイルドシートですやすやと気持ちよさそうに眠る息子の頭を撫でる。和人は嬉しそうに、妻の手に顔を摺り寄せた。
男はそんな愛する2人の光景に、心が和むのを感じながら、視線を前へ戻した。そして、アクセルを踏み込む。
「早く、埼玉に戻ろうな」
「はい。早く、翠の幸せそうな顔が見たいわ」
その返答に、男は僅かに首を縦に振った。まあ、少しの異変も見逃すまいと、フロントガラスの向こう側を睨むように見ながらだが。
そして、もうすぐ下り坂だな、なんて思いつつブレーキを踏み込んだ――――つもりだった。
「――――っ!?」
すぐその異変に気が付いた。ガラスの向こう側ではない、……車自体に。
しかし、それを否定すべく何度もブレーキを踏む。ガタガタと鈍い音が響いているが、構わず同じ動作を何度も、何度もする。
すると、後部座席に座る彼女も異変に気が付いたようで、「どうしたの!?」と悲鳴に近い声をあげた。けれども、それに応える余裕はない。
スピードは一向に変わらない。むしろ、坂に入ったせいか、少しずつ速くなっていく。
それでも、諦めずに踏む。意味がないと分かりつつも、サイドブレーキを思いきり引いた。
――――やっと。
やっと、なんだ。
こんなところで……。
目の前に、カーブが見えた。その瞬間、思考が弾け飛ぶ。
白で塗りつぶされてしまう。
――――そして、そんな最中でも頭に浮かぶのは、和人と、“
も
(
・
)
う
(
・
)
1
(
・
)
人
(
・
)
の
(
・
)
我
(
・
)
が
(
・
)
子
(
・
)
”の姿だった……。
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愚者よ、後ろを振り返ってはならない
たとえ、己の身を滅ぼす結果になろうと
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